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宇宙 廃棄物

軌道デブリから地球を守る協力

The Watchスタッフ

国は 2007 年、地上発射型中距離ミサイルを使用して、機能していない気象衛星を意図的に破壊することにより、自国の衛星攻撃能力実験を行った。この実験により、直径 10 センチを超えるデブリが3,300 個以上発生した。欧州宇宙機関(ESA)によると、これらの破片はどれも、衝突すると、地球を周回する通常の衛星や、国際宇宙ステーション(ISS)にとってすら、壊滅的な打撃となる。

このミサイル実験では、1 センチほどのデブリも 20万個以上発生しているが、宇宙船を無力化したり、ISS のシールドを貫通したりするのに足る大きさである。塗料粒くらいの 1 ミリ未満の小片と衝突しても、その衝突により衛星サブシステムを破壊する恐れがある。というのは、このような小片ですら時速 24,700 キロ以上で軌道を飛行するためである。

1979 年テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターに設立された米航空宇宙局(NASA)軌道デブリプログラム局の首席科学者であるニコラス・ジョンソン(Nicholas Johnson)氏は、「これらのデブリはいずれも、将来的に、高度約 400 キロから 2,000 キロまでの低地球軌道で活動する宇宙船の任務を大きく混乱させたり、終結させることが起こりうる」と説明した。「この衛星の破壊が示すのは、50 年間の宇宙活動のうち最も多量で深刻な破砕である」と、同氏は 2007 実験後に space.com に語った。

国際宇宙ステーションの飛行管制官は、宇宙に漂う破片から離れるよう、定期的に宇宙ステーションを回避操作する。この画像は、宇宙ステーションから見下ろす地球の夜景の街灯と、地球大気圏の外縁に沿うオーロラの緑色の光を映している。NASA

その 2 年後、「コスモス 2251 号」として知られている、機能が喪失した 950 キロのロシアの人工衛星が、機能している米国イリジウム商業衛星と衝突して破壊し、さらに 2,000 個の大きな破片と 10 万個を超える小さな破片が発生した。この 2 件の衝突事件を合わせると、低地球軌道のデブリ量が 60% 増加し、その増加した破片のうち 3 分の 1 以上が 20 年以上軌道に残ったままである。

過去 10 年間、軌道にあるデブリから衛星への潜在的脅威は増え続けている。ESA の推定によると、直径が 10 センチを超えるの宇宙塵は、最大で 34,000個、1cm から 10cm までの物体が 90 万個、地球を周回する 1 ミリから 1 センチまでの大きさの物体が 1 億 2800万個あり、合計で質量は 8,400 トンを超え、つまりは、エッフェル塔の金属構造体の質量よりも多くなる。この数字には、2,900 基を超える衛星が含まれており、これらの衛星は機能していないが軌道に残っている。

この脅威を減らすため、米国戦略司令部(USSTRATCOM)が主導する米国宇宙監視ネットワーク(SSN)は、加盟国のグローバルネットワークを頼りに、宇宙物体に関する情報を識別し、追跡し、共有している。SSN として宇宙デブリを追跡している、米国空軍第 18 宇宙管制通信隊(SPCS)の宇宙飛行リーダであるダイアナ・マッキソック(Diana McKissock)氏によると、国際的に運用されているさまざまな衛星、センサー、光学望遠鏡、レーダーシステム、スーパーコンピューターを使って、SSN は軌道にあるソフトボール程度かそれ以上の大きさの人工物を 25,000 個以上積極的に追跡し、衝突が迫っていることを世界中のオペレーターに警告している。

例えば、米国空軍は、2018 年、942,143 件の能動衛星との衝突の可能性と、6,469 件の緊急事態の可能性とを文書で記録したと、マッキソック氏は The Watch 誌に語っている。オペレーターは、その情報に基づいて、週に2回ほど衛星の位置を変更している。最近の宇宙に危険をもたらすもののうち主なものは、機能が喪失した中国の天宮 1 号宇宙ステーションであった。この天宮1号は、2018 年 4 月 2 日、制御不能のまま地球に墜落したが、その炎が消えるまで地上の人々を脅かした。幸いにも、デブリはハワイの南約 4,000 キロの太平洋上に落下した。

混雑した軌道

特に、野心が高まるにつれ、宇宙にアクセスしやすくなり過密するため、宇宙任務が原因となり生じたり新たに発生したりする人工デブリの管理がますます厳しいものとなっている。米国に本拠を置く非営利科学団体「憂慮する科学者同盟(Union for Concerned Scientists)」によると、現在 60 もの政府機関が 2,060 基以上の能動衛星を運用しており、12 の国と 1 つの運営団体が打ち上げ能力を保有しているという。現在のところ、質量 50 キロ超の人工衛星が毎年平均で 300 基打ち上げられているために、軌道上の衛星数が今後 10 年間で 3 倍以上に増える可能性があると専門家は予測しており、またそのペースはさらに加速すると見られている。宇宙航空研究開発機構(Aerospace Corp)が発表した 2018 年政策文書によると、地球を周回する衛星数は今後 20 年以内に 10 倍の 16,000 まで増加し、それに伴って、警告数も増える可能性がある。

宇宙システムによって、軍事部門および商業部門にその能力を有する国々は、技術的、戦術的および経済的に優位となる。衛星は、ナビゲーション、精密な照準設定、ドローン操作、通信、戦場や戦場以外におけるリアルタイムの状況認識を強化する。SpaceX やOneWeb といった一部の民間企業は、何千基もの小型衛星の打ち上げを計画している。

衛星に対する世界の依存度が高まっていることから、協力関係を強化し、パートナーシップを構築する必要性が高まっていると、専門家らは指摘する。アメリカ戦略軍(USSTRATCOM)の計画・政策局長であるニーナ M. アーマグノ(Nina M. Armagno)米国空軍少将は、2018 年 4 月、「世界的に宇宙開発能力が拡大し、これらのシステムの利用から恩恵を受ける人々の数が増えるにつれ、宇宙の防衛、安全性、持続可能性を確保するために協力することが、我々のためになるのだ」とし、「宇宙領域は、共同で保護し管理するのが最適なグローバル資源である」と述べている。

国際協力

各国はすでに、宇宙塵を制御する技術だけでなく、監視能力を改善するために協力している。宇宙で安全に操作するために、USSTRATCOM は 14 カ国と 2 つの政府間機関を含む 89 の機関と宇宙状況把握(SSA)協定に署名し、データを共有した。オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、ノルウェー、韓国、スペイン、アラブ首長国連邦、イギリス/英国、ならびに、ESA や欧州気象衛星開発機構(Exploitation of Meteorological Satellites)などが含まれる。USSTRATCOM は、ソ連がスプートニクI号を打ち上げた 1957 年以降、宇宙塵を監視しており、65 社以上の商業衛星会社とも情報を共有し、ネットワークの拡大に取り組んでいる。「世界中の誰もが我々のデータを要求することができる」と、マッキソック氏(McKissock)は The Watch 誌に語った。

USSTRATCOM の SSA 共有プログラムは、衛星の寿命が尽きるまで、衝突警告に関する情報を提供する。連合宇宙運用センター(Combined Space Operations Center)は、打ち上げ前の情報を外国商業者に提供して、宇宙物体と初期軌道に入ろうとしている打ち上げ機やペイロードとの衝突が防ぐことができる。このプログラムはまた、衛星再突入評価を実施するものであり、2013 年 2 月に幅 45 メートルの小惑星2012DA14 が地球とその静止衛星の間を通過したときのように、小惑星の危険を追跡するのに役立つ。

SSN には、地球の上 628 キロメートルを周回する宇宙配備宇宙監視衛星(Space Based Space Surveillance satellite)や、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、イギリス/英国が運用するセンサーのほか、米国国防省高等研究計画局(U.S. Defense Advanced Research Projects Agency)が開発した宇宙監視望遠鏡(SST)などが含まれている。最大高度が 35,400 キロの静止軌道でも微光天体を探知できるSST は、南半球での打ち上げの探知と追跡を強化するため、ニューメキシコからオーストラリアに移動中だ。また、米国は C- バンドレーダーをアップグレードし、最近、カリブ海のアンティグア空軍基地から西オーストラリア州エクスマスのハロルド・E・ホルト海軍通信基地に移した。このレーダーは 2019 年に運用可能となる予定だった。

新技術をテストするため、国際宇宙ステーションからデブリ除去衛星が展開された。

SSN には、低地球軌道にある人工衛星や宇宙デブリを追跡するために設計された、第 2 世代の宇宙監視システムであるスペースフェンスレーダーも含まれており、完成間近である。初期の大型 S- バンドレーダーと諸施設は、マーシャル諸島のクェゼリン環礁に建設中で、さらに西オーストラリアにレーダーサイトを別に建設するというオプションとともに、2019 年に稼働する予定であった。このように強化された能力により、潜在的な宇宙デブリの衝突を迅速に警告し、より多数の、おそらく直径 4cm までのものを含めて200,000 個もの物体を、追跡しカタログ化することができる。

また、国際宇宙コミュニティは、1993 年に国際宇宙デブリ監視委員会(IADC)を設立し、人為的および自然の宇宙デブリ問題に関連する世界的な活動を調整する国際的政府フォーラムとしての役割を果たした。IADC のメンバーには、宇宙デブリの有識者や、カナダ宇宙庁(Canadian Space Agency)、中国国家航天局China National Space Administration)、欧州宇宙機関European Space Agency)、インド宇宙機関(Indian Space Agency)、日本宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency)、韓国航空宇宙研究院Korea Aerospace Research Institute)、NASA など13 の宇宙機関からの専門家が含まれている。USSTRATCOM は、IADC の活動や、宇宙デブリ対策のために、国際連合宇宙局およびその国際連合宇宙空間平和利用委員会が組織した活動の支援も行っている。

各国が宇宙塵管理に対する貢献を強化してきている。例えば、2019 年までに、日本は自衛隊に宇宙監視部門を新設する。The Japan Times 誌によると、まず、自衛隊の任務は、地球軌道を浮遊している危険なデブリの監視と、衛星を宇宙デブリとの衝突から守ることだ」とし、「日本はこの新部門で得た情報を米軍と共有して、宇宙協力を強化することになるであろう」と同誌は述べている。

The Watchはアメリカ北方軍の出版物である。


脅威を管理

国は協力して、宇宙デブリを軌道から除去する方法を開発し、国際宇宙ステーション(ISS)で多くのシステムを試験的に実験している。サリー大学のサリー宇宙センター(Surrey Space Centre)の所長、グリエルモ・アグリエッティ(Guglielmo Aglietti)氏が率いる研究者たちのコンソーシアムは、宇宙塵をつないだり、銛を打ったり、網を張ったりして、地表から約 200 キロメートルまでごみを降下させて地球大気圏に再突入させ、燃焼させる方法を開発している。これらの実験の先頭をいくデブリ除去(RemoveDebris)衛星は、2018 年 6 月に日本の実験モジュールのロボットアームによって ISS から展開され、一連の実験を開始した。

私たちは、先頭となってこのような宇宙デブリのますます大きくなる問題に挑むため、革新的な能動的なデブリ除去システムの開発に長年取り組んできた」と、デブリ除去衛星に搭載されている重要な技術のうち 3 つを開発した、エアバス・スペース・システムズ社の社長であるニコラス・チャームシー(Nicolas Charmussy)氏は言う。「世界中のチームと緊密に連携を続けて、我々の専門知識をこの問題の解決に役立つようにしていく」と。

さまざまな宇宙開発国の宇宙科学者たちも、あらゆる大きさの宇宙塵を蒸発させることのできる高出力レーザーの開発に取り組んでいる。2015 年、日本の研究者たちは、ごみを標的にするために、小型レーザーをビームに集束し、それを ISSの日本のモジュールまたは衛星に取り付けることを初めて考案した。陝西省西安にある中国空軍工大の研究者らは、衛星搭載型レーザーを使って、幅 10 センチ未満の破片を含む軌道デブリを爆破することを考案した。彼らは、このアプローチを、2018 年 2 月に、OptikInternational Journal for Light and Electron Optics に発表した。

一方、ライブ・サイエンス社(Live Science)のウェブサイトが 2018 年 6 月に報じるところによると、ロシアの宇宙機関の研究開発部門であるプレシジョン・インスツルメンツ・システムズ社(Precision Instrument Systems)は、軌道にある宇宙塵を追跡して、爆破して消滅することのできる3メートルの光学望遠鏡を建設する計画をしている。

将来のリスクを軽減

将来的には、宇宙空間がより混雑するにつれて、ケスラー効果により宇宙塵はさらに危険なものとなる恐れがある。1978年の仮説には、宇宙に存在する物体の密度が増加するにつれて、それらが衝突する確率も増加することが含まれている。混雑した軌道でケスラー・シンドロームが起こると、1 つの衝突によって次々と衝突が起こり、宇宙塵の衝突という悲惨な連鎖反応が生じることとなり、この連鎖反応は地球の軌道領域全体を衛星の往来に近づける可能性がある。

しかし、たいていの宇宙科学者はこのようなことは起こらないと考えており、たとえ起こったとしても数十年間起こらないと考えている。「理解できなかったと言っているのではなく、手際よくこの問題を扱う必要がないと言っているわけでもない」と、米国空軍上級宇宙運用学校(U.S. Air Forces Advanced Space Operations School)で教える軌道力学エンジニアであるジェシー・ゴスナー(Jesse Gossner)氏は、ウェブサイト Business Insider に語った。「しかし、近い将来、手に負えない問題になるとは思っていない」とコメントしている。

ゴスナー氏をはじめとする多くの専門家は、衝突の可能性がある該当物(parties)を発見して追跡し、警告を発することが、デブリを管理する最も効果的な方法だと考えている。「我々が制御する能動衛星を使用して監視するだけで、衝突を回避することになる」とゴスナー氏は語った。「衛星だけではなく、衛星が生み出すデブリにとっても、極めて重要な問題になるであろう」と。現在のところ、宇宙科学者のなかには、追跡できない最小粒子が最も大きなダメージを与える可能性があると主張するものもいる。

宇宙への野心と依存が高まるにつれ、あらゆる種類の宇宙デブリが国際社会にとって継続的な課題となることは間違いない。「宇宙は脆弱な領域であるため、そのようなリスクを軽減し、脅威を軽減する方法を考える必要がある」と、当時新アメリカ安全保障センター(Center for a New American Security)のシニアフェローだったエルブリッジ・コルビーElbridge Colby)は、2016 年 1 月 Washington Post 紙に語っている。コルビー氏は現在、米国国防総省(DOD)において、戦略・戦力開発担当の国防次官補代理を務めている。

ドナルド・J・トランプ米国大統領が 2018 年 6 月に発表した新しい米国宇宙軍(U.S. Space Force)は、こうした課題に取り組む予定である。トランプ氏はまた、宇宙状況把握(SSA)の任務を米国商務省(U.S. Commerce Department)に移管する作業も進めている。米国戦略司令官であるジョン・ヒュテン(John Hyten)空軍大将は、2018 年6 月 22 日、新たな宇宙司令部の構成とは関係なく、米国国防総省内の SSA の任務を国家安全保障上の理由から継続すると、下院軍事委員会に助言した。「そのことは変わらない・・・潜在的な脅威から身を守るためにはその情報を持っている必要があるからだ」と。

そうしないと、費用が莫大なものとなるのだ。「我々は日々、衛星の脆弱性に気づかずに、衛星が提供するサービスを利用し依存している」と、サウサンプトン大学の宇宙飛行研究責任者であるヒュー・ルイス(Hugh Lewis)博士は、20174月に UK Wired に語った。「今日や明日、宇宙デブリにより衛星が損傷や破壊される恐れがあるだけでなく、我々の世代の行動が、宇宙で働き生活するという将来の世代の夢や野心に影響を与えるかもしれない」と。

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