シップライダー プログラム

シップライダー プログラム

自由で開かれたインド太平洋地域を目指して、戦域安全保障協力を推進 する米国沿岸警備隊

ウォーレン・N・ライト(WARREN N. WRIGHT)少佐/米国沿岸警備隊

米インド太平洋軍(USINDOPACOM)国別地域部隊および提携・同盟諸国の戦域安全保障協力(TSC)の取り組みにより、数十年にわたりインド太平洋地域の結束が維持されてきた。戦域安全保障協力は地域の政治関係への好影響、有害な外部影響への対抗、そして安定性と安全性の向上を図る一種の軍事外交として機能する機構である。

戦域安全保障協力プロジェクトを通じて、米インド太平洋軍の隷下部隊は軍隊の即応性を活かし、人道支援・災害救援(HADR)を実施することで、相互利益をもたらす活動を通して地域の政府機関間の協力関係を強化している。戦域安全保障協力の取り組みは、「世界諸国と経済が依存する海洋と空路をすべての国が自由に利用できる状態を維持すべきである」という考えを唱える米インド太平洋軍のフィリップ・S・デービッドソンPhilip S. Davidson)司令官の「自由で開かれたインド太平洋」構想を支援するものでもある。

二国間協定

米国沿岸警備隊(USCG)の主要な海上安保協力計画「シップライダー(Shiprider)」プログラムは米インド太平洋軍内で毎年成長を続けている。戦域安全保障協力を通して、米国沿岸警備隊は太平洋地域全体にわたる国々と締結している11件の二国間漁業法執行協定に基づき定期的に活動を展開している。同協定により、重要な地域の資源を保護することを目的として、米国沿岸警備隊の隊員と法執行担当者は同警備隊と米国海軍(USN)の船舶を使用して協定締結国と協働することができる。米国国防総省が統括する戦域安全保障協力プロジェクトと同様に、米国沿岸警備隊のシップライダープロジェクトは、太平洋地域のシップライダー協定締結国が資源を保護しながら法律や規制を執行する能力を構築できるように支援することで、締結国の主権を推進するものである。

米インド太平洋軍は、戦域安全保障協力プログラムにより、地域の軍隊の多様な専門能力を開発して活用する活動と演習を通じて、地域の均衡維持を達成することに励んでいる。これには、精巧な能力を備えるオースト
ラリア、日本、韓国、シンガポールなどの国々から過渡期にあるフィジー、フィリピン、ベトナム、そして資源の制約のために能力が依然として未発達の状態にあるミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島に至るまで、さまざまな国が含まれる。こうした提携諸国と米国
の関係は、異なる能力を要因として考慮に入れ、さまざまな適格性の改善を支援できるように構築されている。

米インド太平洋軍の戦域安全保障協力プログラムは、太平洋地域の提携諸国と米国の持続的な共同活動の恒常的な礎となっている。プログラムでは、運用能力と組織能力を構築して、提携国の能力を開発することに重点が置かれている。また、これにより地域の提携国が省庁間活動に従事する枠組も提供している。こうした活動により、国務省や内務省などの他の米国政府機関のプログラムも補完・強化される。

ミクロネシア連邦チューク州でウェルネスチェックを行う米国海軍のナタリー・スプリッツァー(Natalie Spritzer)中尉。同演習は複数国が関与する人道支援・災害救援の準備活動としてインド太平洋地域で実施されている取り組みの中で最大の年次多国籍演習である。タイレル・モリス(TYRELL MORRIS)一等兵曹/米国海軍

貿易の保護

グローバルサプライチェーンに必要な太平洋航路を確保するために、米国にとっては国際通商のための高速航路を安全に維持することが常に重要な課題となっていた。インド太平洋の大部分に広がる太平洋諸島地域は、その領海の経済的価値の重要性を共有している。資産管理に成功している天然資源豊富な国もあれば、単独で成功する能力が不足している国も存在することで、この経済は常に動的である。こうした諸国では直面する安保問題もそれぞれに異なる。この非常に活発な地域に関連して、貿易を確保するには安保が必須となるいう認識の下、中国やインドなどの勢力を拡大しつつある国々が貿易と安保目標を声高に議論するようになってきた。同地域において各国がその取り組みをどのようなアプローチで展開するかもそれぞれに異なる。資源・領土管理に基づく合意を支持する国もあれば、利用性の確保と将来的な提携関係に同意する国もある。

中国は太平洋諸島地域で 2 件のプログラムに着手している。中国人民解放軍海軍、中国海警局、他のほとんどの国よりも大型の漁船を保有する漁民などで構成される海上民兵による海上武装勢力を構築し、それを中国の一帯一路政策に組み入れ、中国から東南アジアと太平洋諸島をつなぐ分枝した物流大動脈を築こうとしている。

米国は二国間協定と 3 つの米国領、そして太平洋地域における米国の戦略的存在感を促進するミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオとの自由連合盟約により地理戦略的優位性を享受しているように見受けられるが、中国のイニシアチブはまさしくこれを標的にしているように見える。

中国は太平洋島嶼諸国に的を絞った略奪的な開発支援を提供することにより、オーストラリア、ニュージーランド、フィジーなどの米国同盟・提携諸国が米国との関係を損なうことで、地理戦略的な均衡を崩すことを狙っている。

米国はオーストラリアやニュージーランドなどの地域提携国と協力して地域の安定化を図り、フィジーやパラオなどの小規模な提携諸国と連携しながら回復力の強化に努めている。こうした目標を達成するには、国外に進出し、政府間の安保の取り組みおよび戦域安全保障協力を通じて、社会の人的交流と文化交流を促進することが最善策となる。 

海事については、太平洋地域の多くの国々にとって米国沿岸警備隊が最適な提携機関となる。米国海軍は優れた軍隊であり、太平洋全体における米国の主権と航行の自由の保護を司ることができる。こうした米軍が海上法令を執行し、環境保護にも従事していることから、米国の友好国の多くはこうした軍事力を備えていなくても、その必要性を感じることなく安心していられる。

「パシフィック・パートナーシップ 2019」演習の一環としてウェルネスチェックを行うペルー海軍のジョン・ガマラ(John Gamara)大尉 タイレル・モリス(TYRELL MORRIS)一等兵曹/米国海軍

安保協力

米国沿岸警備隊の戦域安全保障協力プロジェクトの焦点は、海洋状況に対する意識、対応能力、予防手段、管理インフラを向上させることで、海上の安全と安保を確保することにある。戦域安全保障協力を通じて、米国沿岸警備隊と機関間連携組織が太平洋地域の友好諸国と政府/非政府組織と共に活動を実施することで、友好国は内陸水路、領海、排他的経済水域(EEZ)の海上安全を維持するための自立能力を強化することができる。

米国沿岸警備隊は、沿岸警備隊第 14 管区、沿岸警備隊の国際情勢・外交政策局(CGDCOI)、米国太平洋艦隊(PACFLT)、およびネバダ州兵の協力により、機動訓練部隊、機関間で連携する教官、国際的な教官を使用して継続的に諸国に関与している。こうした米国沿岸警備隊の能力開発活動は米国大使館が所在する国や友好国と一緒に計画策定されており、前述のように、これにより国務省のプログラムが補完される。有能で規律を守り、民間当局に対して責任を持ち、そして国と国民の福利に尽力する専門的な人員を育成することを目標としている。

同地域における攻撃性と強制力に対抗するための鍵は、関係の構築・維持である。米国沿岸警備隊のシップライダーなどの戦域安全保障協力プログラムにより、米国は友好国が主権を維持して独立した活動を遂行する際に手を差し伸べながら、永続的な関係を構築することができる。2010 年以来、こうした二国間海洋法執行(MLE)シップライダー(乗船)協定により、米国は同国の船舶や航空機の利用基盤および海洋法執行に関する専門知識を提供し、太平洋諸島の当局者による執行権限の行使を支援してきた。

臨船審査を実施するため、西太平洋における不審な漁船に接近する米国沿岸警備隊員とオーストラリア漁業管理局(AFMA)職員 サラ・ミューア(SARA MUIR)上等兵曹/米国沿岸警備隊

こうした協定により、太平洋諸国は同地域における海洋法執行能力の不足を解消し、協力、調整、相互運用性を改善し、そして IUU 漁業(違法・無報告・無規制漁業)などの違法活動を効果的に取り締まる能力を構築することができる。また、協定締結国の法執行官が米国沿岸警備隊と米国海軍の船舶や航空機に乗り込み、同じ基盤を利用して海上監視や臨船審査を実施することができるようになる。

通常、米国沿岸警備隊の船舶隊、航空隊、海洋法執行隊がシップライダー協定を執行するが、オセアニア海上保安構想(OMSI/Oceania Maritime Security Initiative)を通じて米国太平洋艦隊が共同乗船を支援するなど、米国海軍と協定締結国の船舶や航空機が投入される場合もある。

米国沿岸警備隊のシップライダープログラムは、革新的かつ協力的な手段として、継続的に同地域に効果的に好影響をもたらしている。太平洋地域における友好諸国との二国間シップライダー協定の浸透を推進することで、
米国沿岸警備隊は同地域の安定性強化を促進している。

より深いコミットメント

太平洋諸島地域における中国の勢力拡大に対抗するためには、米国とその同盟諸国にとって、太平洋諸島の友好諸国との関係を見直してより関与を深めることが不可欠となる。米国沿岸警備隊のシップライダープログラムは、他の米インド太平洋軍の戦域安全保障協力プロジェクトと連携してこのニーズを満たすように完全に調整されている。

二国間シップライダー協定に基づき、パラオの排他的経済水域の漁船(写真なし)に接近する共同搭乗隊サラ・ミューア(SARA MUIR)上等兵曹/米国沿岸警備隊

実際のところ、太平洋地域のさまざまな諸島と米国の間で個別に締結されている11件の二国間協定が、共有環境・海洋資源への投資、海事の安全と安保において共通の関心を持つ国家間の透明性の高い合意、そして中部太平洋と南太平洋全体における公正かつ相互的な貿易への取り組みを推進する地域提携体制の基盤となっているようである。

すべての国が利用できる自由で開かれたインド太平洋を維持することを目的として、米国は提携諸国と緊密に協力を図っていく構えである。シップライダープログラムへの関心の高まりからも分かるように、米国沿岸警備隊は米インド太平洋軍の任務を直接的に支援しながら、米国の提携諸国の安定と安保の強化を継続的に推進する独特な立場にある。


米国沿岸警備隊のシップライダー協定

米国国際開発庁

米国沿岸警備隊は東太平洋地域と西アフリカ地域の諸国と締結している 16 件の二国間海洋法執行シップライダー(乗船)協定を定期的に執行している。最も新しいシップライダー調印国は、2018 年 11月に協定を締結したフィジーである。同協定を締結することで、締結国の防衛担当者や法執行官は米国沿岸警備隊と米国海軍の船舶に乗船し、排他的経済水域や公海を航行する船舶を観察・保護し、法規制違反が疑われる場合は臨船審査を実施することができる。

シップライダー協定により、世界の海洋法執行における隙間や抜け道を埋め、協力、調整、相互運用性を改善し、そしてIUU 漁業(違法・無報告・無規制漁業)などの違法活動を効果的に取り締まる能力を構築することができる。同協定はオーストラリア、ニュージーランド、フランスなどの提携諸国との取り決めを補完・強化することを目的としている。

たとえば、フィジーの法執行官は米国沿岸警備隊と米国海軍の船舶に「乗船員(シップライダー)」として乗り込んで任務を執行することができる。この任務には、違法漁業や違法薬物などの密輸といった違法行為への関与が疑われる船舶の取り締まりが含まれる。2018 年に発表された米国沿岸警備隊の報告書によると、過去 6 年間に 103 隻の米国沿岸警備隊と米国海軍の船舶に協定締結国の執行官が乗船し、33 件の違反が摘発されている。

二国間海洋法執行シップライダー協定により、締結国による自国の法規制執行を米国が支援することで、協定締結国の主権が推進される。他の諸国や他地域におけるシップライダー協定の導入を推進することで、世界的な海洋法執行の取り組みを強化できる可能性がある。

米国は中国とも公海流し網操業対策を目的とする二国間シップライダー協定を締結しており、他にはカーボベルデ、ガンビア、ガーナ、シエラレオネ、セネガルなどの西アフリカ諸国とは 5 件の二国間シップライダー協定、またクック諸島、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、ナウル、サモア、トンガ、ツバル、バヌアツなどの太平洋島嶼国とは 11 件の恒久的な二国間シップライダー協定を結んでいる。

米国沿岸警備隊は中国とは過去 23 年間にわたり、西アフリカ諸国と太平洋島嶼国とは過去 9 年間にわたり、シップライダー協定に基づき継続的に共同で国際的な漁業法の執行に取り組んできた。

シップライダー協定は世界の海洋をより効果的に規制できる革新的かつ協力的な手段である。シップライダー契約に関心のある国は、ぜひ米国沿岸警備隊または地元の米国大使館に問い合わせていただきたい。

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