投資 メコン川

投資 メコン川

地域の発展・保全のための重要な財政面の役割を日本が担う

FORUM スタッフ

メコン川は全長が 4,800km を超える壮大な川で、中国からメコン流域の 5 ヵ国(ビルマ、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナム)を経て南シナ海へと抜けるまでに、6000 万人以上の人々に食糧、水、交通手段を提供している。しかしこの川は同時にインド太平洋地域の最も困難な環境問題を抱えている。メコン川の階段状の滝や急峻な流れによって創り出される、実に絵画のような
景色が投資を集めると同時に、投資国家が自国の影響力を主張するための新たな戦場にもなっている。

メコン川流域は、中国の一帯一路(OBOR)インフラプログラムに基づく投資で溢れている。しかし、日本は長年にわたり、ビルマ、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムへの主要な投資国の地位を維持してきた。

カンボジアのカンダール州に住むこの夫婦のように、メコン川で生計を立ててる人は、中国が資金提供する発電ダムの建設によって脅かされている。AFP/GETTY IMAGES

「日本のメコン投資には、確かに中国と競っている側面がある」と東京大学公共政策大学院教授のイー・クァン・フォン(Yee-Kuang Heng)博士は、FORUM に述べた。「日本はしばしば『質の高いインフラ』という言葉を使っているが、これは日本のプロジェクトを、中国の巨大プロジェクトと区別する手段として広く使われている。中国の巨大プロジェクトは、質が低く財政的にも環境的にも持続可能性が低いと思われがちである。被援助国として、中国の OBOR プログラムで債務の罠外交に対する懸念が高まる中、日本は有望な代替案となり得るのです」

日本は、多額の公的資金を投じて、民間融資のバックアップと信頼できる金融パートナーとしてのイメージを強化してきた。シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズによると、過去3年だけを見ても、日系企業はメコン川地域に対して約約 2 兆円(約 180 億米ドル)相当の投資を行っている。また現在、「日メコン協力のための東京戦略 2018」の一環として、日本は経済支援の貢献を拡大してきている。2018 年に開かれたメコン地域の首脳との会合では、地域間の連絡を改善し環境を保全すべく、今後3年間でさらに 150 件のプロジェクトへの資金提供を日本が行うと約束した。

201 8年 10 月に東京で開かれた第 10 回日メコン首脳会議で、安倍晋三首相は「これまでの支援実績を踏まえ、海外投融資、ODA(政府開発援助)等の公的資金を活用して民間投資をこれまで以上に後押しする」と述べた。

日本のメコンへの投資は中国の一帯一路構想よりも前から行われているが、現在の投資は安倍首相の自由で開かれたインド太平洋戦略に明確に結びついており、中国の影響力に対抗するために意図的に調整されている、とフォン博士はコメントしている。

異なる視点

日メコン首脳会議に先立ち、安倍首相はカンボジア、ラオス、タイ、ベトナムの首脳と個別に会談を行った。会談において、中国が提案するプロジェクトとは全く対照的な提案を行った。例えば、中国が提案する発電用のダム建設の場合、地域の環境破壊をもたらすことになる。

メコン川に浮かぶ市場で果物や野菜を売るベトナム人女性。メコン川で有名な水上市場。ここで、農民が地元のディーラーに商品を販売す。ISTOCK

安倍首相は不発弾処理を加速させるため、最大約 8.5億円(800 万米ドル)の支援をラオスに行うと表明した。ラオスでは、ベトナム紛争で残された数百万の爆発物が除去されずに残っているため、これらが農業やインフラ開発でのリスクとなりうる。

日経アジア・レビューによると、ラオスのトーンルン・シースリット (Thongloun Sisoulith) 首相は 「日本の政府開発援助を高く評価します」と述べた。 「この活動はラオスの経済発展に寄与するものです」

また、日本政府はカンボジアに対し、トンレサップ湖周辺に灌漑施設を建設するため、最大約 35 億円(3160 万米ドル)の融資を提案した。トンレサップ湖は、年間 390 万トンの漁獲高で、約 3.2 兆円(30 億米ドル)以上の価値を生み出す世界最大の内陸漁業である。水の増減サイクルのおかげで水が引くと農業に適した耕地ができ、雨季には湖は5倍に拡大する。灌漑施設によって、稲作の生産性が 3 倍にまで高まることが期待されている。

2018 年 10 月に東京で開催された第10 回日本・メコン地域諸国首脳会議に出席するミャンマーの指導者アウン・サン・スー・チー氏を歓迎する、日本の安倍晋三 総理大臣。ロイター

日本が計画する 150 のプロジェクトは、以下の 3 つの分野に分類される。第一に、ラオスの空港施設の拡張やミャンマーの道路建設など交通インフラの整備である。第二に、医療の改善を目指した技術の導入するなど人中心の社会の構築、そして第三にカンボジアの灌漑事業などの環境・災害管理である。これら 150 のプロジェクトにかかる金銭的価値についてはまだ何も言及されていない。

メコン地域の首脳は、中国との取引が多いにも関わらず、南シナ海での航行の自由や質の高いインフラプロジェクト推し進める安倍首相の自由で開かれたインド太平洋戦略への支持を表明した。中国はメコン周辺国の一つであるベトナムが領有権を主張している南シナ海の岩礁や人工物の領有権を主張している。この主張は国際法定において拒否されている。各国首脳は東京サミットの共同声明において、名指しこそ避けたが、暗に中国の行う土地埋め立てプロジェクトやその他の活動が、 「信頼を蝕み、緊張を高め、地域の平和、安全、安定を脅かしかねない」と述べた。

長期的なメコン投資国

近年、中国の広範な一帯一路プログラムが国際的な注目を集める一方で、日本は長年にわたってメコン周辺諸国に投資を行ってきた。 

「日本は、中国の一帯一路構想が注目されるずっと以前から、メコン地域などでいくつかの交通網を整備してきた」とフォン氏は言う。「日本は新参者ではなく、1945 年から続く長きに亘る ODA 事業歴史で培われた豊富な経験と技術を持っている」

東京サミットでベトナムのグエン・スアン・フック首相がカンボジアのフン・セン首相を抱擁する姿を見つめる日本の安倍晋三 首相。ロイター

日本は、メコン周辺諸国を結ぶ道路、鉄道、港湾の統合システムである東西経済回廊計画に貢献してきた。東西経済回廊計画は、ミャンマー、ラオス、タイ、ベトナムを結ぶ橋や国道の建設に焦点を当てている。このプロジェクトには、ベトナムのダナン港の改築も含まれている。日本はまた、カンボジア、タイ、ベトナムを結ぶ南部経済回廊の事業にも投資してきた。

日本が投資をするのは、単に中国と競っているというだけではないとフォン氏は言う。「しかし、日本がより大きな地域的役割を果たそうとする背景には、自国の重要課題も関わってきています」とフォン氏は言う。「例えば、安倍首相は以前から『日本は戻ってきた』と主張しており、決して二等国にはならないと主張しています。安倍首相が日本の国際社会における存在感を上げるために活用してきた主な手段として、ODA や長年にわたる接続性イニシアティブ、地域内外の多国間の枠組みがあります」

メコン地域への投資に加え、日本政府はアフリカ開発会議(TICAD)や日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議(PALM)を動かして、接続性イニシアティブと包括的且つ自由で開かれたインド太平洋戦略への支援を強化した、とフォン氏はコメントしている。

熾烈な競争

日本はメコンでのビジネスパートナー獲得をめぐって、中国との厳しい競争に直面している。中国は一帯一路プログラムの一環として、数千億円相当の譲許的融資および投資を行っている。中国は、ランカン・メコン協力(LMC)イニシアティブを通じ、2016 年のみでもビルマ、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムのメコン川流域諸国に約 1700 億円 (16 億米ドル)の貸付と 1 兆 800 億円(100 億米ドル)の信用供与を約束した。ハノイのベトナム国立大学経済政策研究所のグエン・ハック・ジャン(Nguyen Khac Giang)研究員がまとめた報告書によると、翌年、LMC を通じて 45 件のプロジェクトに対し、約 1200 億円(11 億米ドル)の譲許的融資と約 5400 億円(50 億米ドル)の信用供与が行われる。中国とメコン川諸国との提携枠組みの名称は、中国ではランカン(Lancang)と呼ばれる川とその下流のメコン川に由来する。

環境保護活動家たちは、中国が資金を投じているカンボジアのストゥントレン州のような発電用ダムは、この地域の淡水魚の個体数に壊滅的な打撃を与えていると批判してきた。 AFP/GETTY 画像

不透明さゆえに投資を追跡することは困難であるが、経済発展の促進を目的とする 36 ヵ国で構成される経済協力開発機構(OECD) によると、中国はメコン地域における ODA の主要な貢献国の一つである。ODA とは、国際的な援助の流れを示すために国際機関が作った用語である。それには融資と供与が含まれている。

OECD の透明性基準を満たす国の中では、日本はメコン地域における最大の ODA 貢献国であり、韓国は上位5 位に入る。韓国はベトナムでの開発援助に力を入れており、2018 年には日本を抜いて最大の外国投資国となった。

しかし、金融・貿易面での競争が、メコン周辺諸国に競争国間の選択を余儀なくさせるのではないかと懸念する声もある。日経アジア・レビューによると、2018 年 3 月にカンボジアのプノンペンで開かれた日メコン地域フォーラムで、地域諸国の首脳がこうした懸念を表明したとのこと。

これに対し、安倍首相の薗浦健太郎特別顧問が、日本の新戦略はより広範なインド太平洋戦略に関して東南アジア諸国連合(ASEAN)を支援することに向けたものであると回答した。日本は、交通とインフラの連携を通じて2つの大陸と海洋を繋ぎ、自由貿易、法の支配、安全保障の強化を通じてさらなる連携の促進を考えている。 「この戦略の方針を支持する国であれば、どの国
とも協力は可能であると考える」と彼は言った。

東南アジア諸国連合の大臣も同様に、東南アジア諸国連合を中心とした「開かれた、透明で、包括的で、法に基づく」地域構成を採択している。

グリーンメコン 

東南アジア諸国との連携戦略の柱の一つに「グリーン・メコンの実現」がある。この戦略には、気候変動と海洋汚染への対策、水資源管理、災害リスク軽減が含まれています。これらは日本が優位に立てる分野です。

中国が実施するこの地域への投資については、環境保護団体が声高らかに批判しています。事実、中国が望む水力発電や、メコン川流域の水量調節によって、この地域の食の安全や環境が悪影響を受けると結論づける科学的研究が多く見られる。

最近の研究「上流における流量調整によって損なわれ得るメコン川下流域の洪水の力学 (“Potential Disruption of Flood Dynamics in the Lower Mekong River Basin Due to Upstream Flow Regulation,”)」によると、中国がこの地域に建設している多くのダムにより、下流域の生態系における魚の個体数を健全な状態で維持するために不可欠な栄養素が奪われていると言及している。ミシガン州率大学の研究者らは 2018 年 12 月に、国際科学誌の Nature にこの研究結果を発表した。

「季節的な脈動に対する大きな変化が、この地域の氾濫原の力学を容易に変える可能性がある」と、筆頭著者であり、ミシガン州立大学の土木・環境工学の助教授であるヤドゥ・ポクレル (Yadu Pokhrel) 氏は述べた。 「これによって、広範囲の生態系が深刻な影響を受け、地域の食料安全保障が脅かされる可能性がある」

メコン河流域で計画されている最大のダムは、中国が支援するカンボジアの 620 平方キロメートルの貯水池建設プロジェクトである。カンボジア政府に代わって国立遺産研究所の専門家が作成した報告書によると、このダムは中国南方電網有限責任公司が設計したもので、発電量を増加させるが、「メコン川の漁業の崩壊と、ベトナムの強い敵意という代償を払う可能性がある」と明記している。

提案されているダムは、毎時数千匹の魚が行き来する経路を遮断する。これらの魚は産卵のために上流の支流に向かう魚、下流の養魚場および漁場としてのトンレサップ湖やメコンデルタに向かう魚などである魚は最終的にはベトナムデルタに到達するが、その地にはすでに海面上昇による洪水と土地減少の問題がある。

戦略的な利害

日本は、2017 年の総人口が 2 億 3800 万人、国内総生産 (GDP) が約 84 兆円(7810 億ドル)のメコン地域を、有望な市場であり企業のインフラ輸出にとって重要な輸出先と考えている。共同通信が 2018 年 10 月に報じたところによると、日本政府はまた、メコンが中国とインドの間に位置し、南シナ海の重要な海上輸送路に面していることから、軍事的・地政学的観点からもメコンの重要性を認識している。

東京サミットに出席したメコン地域諸国の首脳の多くは、日本の協力は経済的利益だけでなく平和にもプラスの利益をもたらすと述べた。ミャンマーのアウン・サン・スー・チー (Aung San Suu Kyi) 氏は、ミャンマーは日本の投資から大きな恩恵を受けており、この地域も恩恵を受けていると述べている。 

報道によると、同氏は「全体的に見て、日メコン協力は成功例であるということで一致したと思います」とコメントしている。「我々は、この協力を繁栄のためだけでなく、地域の平和と安全のためにも活用していくことを確信している」

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