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科学者等の見解:ロシアのリスクと欺瞞手段のパターンが浮き彫りになったミサイル実験事故

2019年8月8日にロシアで発生した爆発により、ロシア人技術者5人が死亡し、他にも負傷者が発生した。諸国の専門家等は原子力推進式巡航ミサイル実験中の事故と推測している。これまで長きにわたり、ロシア政府が市民や隣国の安全を顧みずに危険な実験を実施することの是非が問われてきたが、今回の爆発事故により同問題が再び浮き彫りになった。

実験失敗後のロシア当局からの声明が一貫しない状態は、1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故後にソビエト連邦が利用した隠蔽工作を彷彿とさせる。チェルノブイリ原子力発電所の事故では、スウェーデンに所在する原子力発電所で警報が鳴るほど高線量の放射性物質が検出された。スウェーデン当局から警報発生の連絡を受けたソビエト連邦は事故発生の可能性を一旦否定したものの、スウェーデン側から国際原子力機関に事態を報告する意向を伝えられると、爆発が発生した事実を認めた。

今回の爆発の後もこれと同様のパターンが見られる。AP通信(AP)が報じたところでは、ロシア国防省は当初、液体燃料ロケット実験中の爆発で2人が死亡し6人が負傷したと発表している。同省は爆発後の放射能レベルを「正常値」と述べていたが、その時点で近隣のセベロドビンスクの市当局から放射能レベルの一時的な急上昇がすでに報告されていた。

2日後、同国の国営原子力企業「ロスアトム(Rosatom)」は爆発が白海に面した実験場で発生したことを認めたが、この時点では同実験に「放射性同位体の動力源」が関与していたと述べている。ロスアトムは後に、核技術者5人が死亡し、3人が負傷したと発表している。

世界諸国の科学者等の見解によると、ロシアは原子力推進式巡航ミサイル(NATOコード:スカイフォール)を実験を行っていたと推測される。ロイター通信に対して、米国科学者連盟(FAS)のアンキット・パンダ(Ankit Panda)客員上級研究員は「液体燃料ミサイルエンジンは爆発しても放射線が放出されることはない。したがって、ロシアがある種の原子力推進式巡航ミサイルの実験に関わっていることは間違いない」と述べている。

匿名を条件としてロイター通信と会見することに同意したドナルド・トランプ(Donald Trump)米政権の高官もロシア側の発表を疑問視しており、「チェルノブイリ原子力発電所事故が発生した当時、ロシア政府がロシア国民の福祉よりも自国の権力保持と脆い一連の隠蔽工作を優先することの是非を問う世論が沸いたが、今回の事態は当時まで遡る一連の状況を思い起こさせる」と語っている。

モスクワから北へ1,000キロの地点で実施された今回の実験は、明らかに原子力推進システムに関係していると、ある専門家は主張している。

ミドルベリー国際大学院モントレー校・東アジア核不拡散プロジェクトのジェフリー・ルイス(Jeffrey Lewis)部長がロイター通信に語ったところでは、爆発発生日にロシア沖に存在していた船舶の自動船舶識別装置から発信された信号を同プロジェクトチームが調査した結果、そのうちの1隻が核燃料運搬船であることが判明している。ルイス部長は、「従来型ミサイルの実験にこの種の船舶は必要ない。「これは海底から原子力推進装置の残骸の回収作業を行う際に必要となる船舶である」と説明している。

核監視機関も放射能関連情報におけるロシアの透明性欠如を指摘している。包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によると、8月8日の爆発後間もなくして、ロシアにおける放射性物質計測機器の一部の作動が停止したが、現在は正常に稼働している。米国国家核安全保障局(NNSA)のウィリアム・トビー(William Tobey)元副局長はAP通信に対して、爆発発生時にロシアの計測機器からのデータ送信が停止したというのは「少なくとも奇妙な偶然」であると述べている。

セベロドビンスクの市当局は8月8日には30分間も放射能レベルが平均測定値の20倍に上昇したと発表している。ノルウェー当局からの発表によると、その週の後半に実験地から約805キロ離れた同国地域でも低レベルの放射線が検出されている。

原子力推進ミサイルは長年にわたって危険な計画とされてきた。1960年代には米国も同ミサイルの開発に取り組んでいたが、非現実的かつ文民に対するリスクが高いと考えられたため、米国は最終的に同計画を破棄している。ロシアが同概念を復活させていたことが判明したことで、重要な疑問が提起されると、トビー元副局長は話している。

同元副局長は、「事実上、ロシアは原子炉を搭載したミサイルを開発することを考えている」とし、「この種のシステムの着想にはリスクが伴うと言える。これにより、おそらく米国国民よりもロシア国民の方がより高いリスクに曝されることになる。事故が発生すれば、放射能が拡散される可能性がある。この種のシステムの信頼性は明らかに低い」と説明している。

米ソ間で結ばれていた中距離核戦力全廃条約の失効から1週間経たないうちに同爆発事故が発生した。同条約は射程が500キロから5,500キロまでの範囲の核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを禁止するものだが、本条約の破棄を通告した米国は、長年にわたるロシアの条約違反をその理由として挙げている。

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