特集

海洋制覇の野望を抱く 中国 対策

中国の領土拡大主義の抑制と主権に対する脅威の削減を目的として協力体制の強化を図る諸国

モハン・マリク(Mohan Malik)博士

2019 年 4 月、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)司令官のフィリップ・S・デービッドソン(Philip S. Davidson)大将は、中華人民共和国(中国)が南シナ海に秘密軍事基地や人工島を建設するなどして軍事を拡張し、同海域を事実上支配していると証言した。デービッドソン大将は米国上院軍事委員会(SASC)の公聴会で、「要するに、現在中国は米国に戦争をしかけないまでも、考えられるあらゆる状況下で南シナ海を支配できる能力がある」と述べている。

過去 20 年の間、中国人民解放軍海軍(PLAN)は習近平(Xi Jinping)中国主席が目指す「最強の海軍国としての正当かつ歴史的な中国の地位」の回復に向けて継続的な努力を重ねている。

2019 年 5 月に編隊航行する日米印比の海軍艦船。自由で開かれたインド太平洋の防衛を
目的として、新たな
多国間安保協力網が出現。 ロイター

中国人民解放軍海軍が東アジア大陸部の沿岸から南シナ海を囲むようにして北上するいわゆる「第一列島線」に含まれる主要な諸島の軍事化を進める一方で、中国政府は日本(伊豆諸島)を起点として太平洋のマリアナ諸島とミクロネシア連邦に至る戦略的な「第二列島線」における小さな島嶼国の買収に取り組んでいる。2020 年までに、中国は世界最大の海軍艦隊と潜水艦隊を有する国になると予測されている。世界の主要な50港湾のほぼ 3 分の2は、中国が所有しているか、同政府からの投資を受けている。中国は商業的・戦略的な目的で沖合の軍事力を強化するために景気よく用地や基地の買収を続け、民間治安部隊や非戦闘員部隊を配置し、そして海上交通輸送路とチョークポイントに沿って戦略的に位置する諸国に兵器を提供している。

ますます進化する中国政府の海洋戦略は、工業化と国内経済成長を促進するための天然資源と製造品を投入する海外市場、そしてこの両方を利用かつ保護するための前方基地の発掘が主な推進力となっている。中国の壮大な野望に匹敵するほどの勢力は他に存在しない。南シナ海とその資源のほぼ90%を独り占めすることへの主張は、同国にとってはほんの序の口かもしれない。最近では、中国は自国を「北極近隣国」と称し、共有されるべき北極圏の資源を「人類運命共同体」と表現している。

中国の二大洋戦略

19 世紀の地政学思想家であるハルフォード・マッキンダー(Halford Mackinder)と海洋戦略家のアルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan)に触発された習主席が推進する一帯一路(OBOR)政策にとって、同国の海洋戦略は不可欠な要素となる。一帯一路政策は資源・市場管理の確保を目的として、ユーラシア大陸全域に陸上輸送路と貿易回廊を構築し、港湾を繋ぐネットワークの開発を目指すものである。中国人民解放軍海軍の二大洋戦略における論理的な頂点に当たるのが海上ネットワークの構築である。

中国は太平洋を支配し、インド洋の常駐勢力になることを目指している。たとえば、中国人民解放軍海軍の尹卓(Yin Zhuo)退役少将は、「空母打撃群を西太平洋に2隊、インド洋に2隊」配備することを目的として「少なくとも 5、6 隻の航空母艦」の建造を提唱していた。 

中国の融資により、中国政府の管理下にある企業が運営する1,400 億円(14 億米ドル)規模のスリランカ「コロンボ港湾都市 (Colombo Port City)」プロジェクト。対抗策として、コロンボ南港を共同開発するために日本とインドが連携。整備される東コンテナターミナルはスリランカの所有・管理下となり、中国よりもスリランカにとって有利な融資条件が提示されている。 AFP/GETTY IMAGES

新疆ウイグル自治区とパキスタンのグワダル港を繋ぐ鉄道とパイプラインおよび中国雲南省の昆明とビルマのチャウピューを結ぶ鉄道とパイプラインを、中国政府は一帯一路政策における最も重要な2 大静脈と位置付けている。これにより、同国政府はインド洋への経路を手中に収め、マラッカ海峡経由の貿易とエネルギー資源の移動に伴うリスクを克服できる。中国の遠海防衛教義に基づき、マラッカ海峡の戦略的脆弱性を誤魔化すために、多くの中国人民解放軍海軍戦略家はパキスタンとビルマを 「中国の西海岸」と見なしている。

中国政府はまた、自国沿岸から遠く離れた地点で水陸両用作戦を遂行することを目的として、中国海軍遠征軍を構築している。明らかに中国は、中国とアジア、アフリカ、欧州を結ぶ港湾、鉄道、沿岸都市の回廊構築を約束する海路開発提案に地理的に沿う諸国に対して、経済成長と軍事安保に関しては中国に目を向けるべきであるという意図を伝え、中国政府の影響範囲拡大政策を邪魔する国は容赦しないというメッセージを送りたいようだ。

中国「投資の罠」の魅力

サプライチェーン地政学に関する要素が重大な駆け引きとして浮上しているところを見ると、主要諸国はインド太平洋地域における重要な産業、技術、商業の中心点を感化することを狙って競っているようである。貿易と商業においては、大半の国は片方の側に付くことなく、相手諸国に万遍なく関与する。ほとんどの新興経済国がそうであるように、工場、学校、道路、港湾の建設を望む国にとっては、中国が提供する資本と工学は魅力的である。また、中国の強力な経済力により、小国は大国同士を競らせることで自国が有利となるように取引を誘導する機会が得られる。紛争で崩壊している独裁政権には世界的な大手金融機関から融資を受けることが難しいが、それでも中国は援助と投資の手を差し伸べてくれる。

中国に貸し出されたスリランカのハンバントタ港に近い南部の町、ベリアッタで駅の建設作業に勤しむ中国人労働者等。過重な中国融資の返済に行き詰まったスリランカは、99 年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に追い込まれた。通常、中国企業は地元の労働者を雇用せずに、中国人労働者を派遣して事業実施国でプロジェクトを構成する。AFP/GETTY IMAGES

多くの場合、国家機関と企業の権威主義が融合した中国は、民主主義国が対抗できないような手段で資金を調達することができる。資金力のある中国国営企業(SOE)は中国の銀行や他の政府機関を後ろ盾とすることで、環境、労働、人権に関する懸念を払拭できるだけでなく、意図的とは言え、建設期間の延長やコスト増加に繋がる他の国際基準を回避することが可能となる。サウスチャイナ・モーニング・ポスト (South China Morning Post)紙が 2019 年 4 月に報じたところでは、2013 年から 2018 年までの間に中国企業は一帯一路政策に関わる諸国に 9 兆円(900 億米ドル)以上を投資している。アジアとアフリカにおけるインフラ開発に対する多大な需要を考慮すれば、一帯一路政策が意図する連結強化目標は、都合の良いことに地域の連結計画と一致していると考えられる。中国の国営通信社である新華社通信によると、2019 年 4 月の時点で、中国は 125 ヵ国および 29 社の国際機関と173 件に上る協力協定を締結している。

インフラ外交により、自国の強みを活かすことができ、同時にユーラシア大陸の再編と人民元の国際化という目標達成が推進される。新興のインフラ網における必然的な門番役として地域に入り込む中国政府は、諸国家を自国の軌道内に誘導し、こうした地域と米国との同盟関係を希薄化させることを企んでいる。一帯一路プロジェクトが完了すれば、資源の入手経路を得た中国は過剰生産能力を輸出し、戦略的存在感を確立して権力を投影できるようになる。

巻き添え被害

経済成長を望む多くの諸国が中国政府に目を向けているが、これを「新植民地主義外交」として認識し、同政府の政策に不快感を示す国も増えている。多くの場合、同国による融資案件は、融資先国が債務や借用証書に苛まれ、中国による長期的な管理や支配という形態の戦略的な罠に落ちることで幕が閉じられる。18 世紀から 19 世紀にかけて、欧州の工業大国が資源、市場、基地を求めてアジア、アフリカ、ラテンアメリカを植民地化したように、海外の資源、市場、基地および重商主義を追求する中国は、今やアジア、アフリカ、ラテンアメリカの弱小国の主権と独立性を阻む大きな問題となっている。一部の一帯一路プロジェクトは紛争領土・海域にまたがっており、これにより領土の保全と主権が損なわれる。

多くのインフラプロジェクトの推進力となっているのは、戦略的拠点の獲得に焦点を当てる中国の地政学的目標である。これは健全な経済学と呼べるものではない。多くの場合、これでは事業による利益は発生せず、多額の負債を抱え込んだ相手国を圧倒する「無用の産物」が生み出されるだけとなる。債務額が多額であるほど、中国はより強い立場で、相手国の土地や資源、港湾や空港の独占的所有権や利用権の譲渡を交渉できるようになる。

また、中国の国営企業は戦略的に立地する諸国で中国の労働力と技術を用いてプロジェクトを構成するだけでなく、人民幣/人民元で中国の国立銀行から借り入れ、4%から 6%という高金利で相手国に融資した資金を米ドルで返済することを要求する。海外の利益、資産、国民、プロジェクトの権力を保護することを目的として、中国政府は頻繁に海外拠点(50 年〜99年の賃貸期間で 75%〜85%の持ち株比率)を探索し
ている。スリランカとジブチの事例のように、中国の経済的支配により相手国は港湾、空港、重要インフラといった戦略的資産の主権を喪失する。たとえば、中国企業の UDG 社は、99 年を賃貸期間として 20%近くに及ぶカンボジア沿岸を管理下に置いている。これを受け、ギャレス・エヴァンス(Gareth Evans)元豪外相はカンボジアを「中国企業の完全子会社」と表現した。パキスタンとケニアの例を見れば分かるように、多くの場合、債務の増加により、借金国は中国の融資額を返済するために国際通貨基金(IMF)に財政支援を求めざるを得なくなる。要するに、ビルマ、ケニア、モルディブ、マレーシア、モンテネグロ、スリランカなどの国々は、中国の製品、サービス、労働力を購入するために高利貸付を押し付けられながらも、自国の失業率、汚職、環境悪化は緩和されないという不公平な取引に対して不満の声を高めている。

さらに、中国資金によるインフラの大規模化と小国の経済的支配により、南シナ海、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区の強制収容所、不公正な取引慣行といった問題に対する債務者側の外交政策の選択肢が制約されることになる。たとえば、中国はカンボジアとギリシャの経済的締め付けを通して、南シナ海の領有権問題と人権・貿易問題に対する欧州連合(EU)の姿勢を効果的に拒否できるようになった。中国による小国の経済的支配の拡大により、地域の結束および欧州連合、ASEAN(東南アジア諸国連合)、太平洋諸島フォーラムといった組織の弱体化という悪影響がもたらされた。市場参入の制限を通した経済的強制により、とりわけインド、日本、フィリピン、韓国との間における二国間関係が脅かされることになった。

加えて、いわゆる中国モデルは脆弱な民主主義を損ない、権威主義と腐敗を促進するだけでなく、その監視技術により自由が制限される。簡単に入手できる中国の融資は、政治システムが機能不全に陥っている脆弱な経済国の不道徳な権力者層が欲しがる「アヘン」に等しい。多くの場合、中国による地域の経済締め付けへの懸念によりもたらされる国内圧力は政治改革へと繋がる。中国政府による経済支援の拡大により、民主制度の弱体化や強権政治の支持、民軍関係の変化、そして汚職の増加がもたらされることが多々ある。さらに、最近発生したビルマ、インドネシア、モルディブ、マレーシア、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、ジンバブエの事例のように、中国因子が政権交代や総選挙時の二極化に繋がるという問題がある。

中国政府の他国への関与が高まるにつれて、同政府に対する否定的な意見が増えている。歴史的事実からも明らかなように、経済的依存からは失望が生まれる。多くの場合、弱小国家は大国同士を対決させようとするため、内政における陰謀や外部介入の餌食となる。18 世紀から 19 世紀にかけて、虚弱であった中国や他国に対して欧州の大国が行った行為を、現在、中国はアジアとアフリカで繰り返している。習主席が提唱する一帯一路政策は、いくら良く見ても「一基一路  (One Base, One Road)」、最悪の場合は「一借一路 (One Debt, One Road/ODOR)」に落ちぶれつつある。結果として発生するのは、重商主義や保護貿易主義、貿易戦争、そして西太平洋から西インド洋にかけて前方基地を建設、取得、利用しようとする冷戦時のような拠点の取り合いの復活である。

対抗戦略

中国政府は成長と繁栄を目的とした「共通の運命共同体」を促進する連結のためのインフラ構築と主張しているが、現在、一帯一路政策が意図する陸路と海路に沿った中小国だけでなく、欧州連合、インド、日本、米国からも激しい反発が発生している。2017 年に初めて開催された一帯一路フォーラムに参加した一部の諸国は、2019 年の第2回フォーラムへの不参加を決定した。こうした諸国にはアルゼンチン、フィジー、ポーランド、モルディブ、スペイン、スリランカ、トルコ、米国が含まれる。

一帯一路政策への批判の高まりを受け、2019 年 4月に開催された第2回一帯一路フォーラムで、中国政府は環境に配慮し、腐敗がない透明性の高い投機を促進することによる軌道修正を約束したものの、習主席による史上最大規模のプロジェクトへの反発は、今や西側諸国やアジアにおける中国の敵対国に限らず、ビルマ、モルディブ、マレーシア、ネパール、パキスタン、スリランカ、タイなどの国々にも広がっている。

中国国際経済交流センター(CCIEE)情報部の王軍  (Wang Jun)元部長などの懐疑論者等は、中国政府は 「戦略的ではなく、戦術的な調整しか行わない」と主張している。したがって、欧州連合、インド、日本、米国などの諸国は、以下の規則に準拠しない場合は、一帯一路連結強化プロジェクトを支援しないことを共同で主張する必要がある。

  • 領土の保全と主権を維持する。
  • 中国の銀行だけでなく、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やアジア開発銀行(ADB)といった国際開発金融機関から資金提供を行い、国際的な融資基準と規範に準拠する。
  • 良好な統治を促進し、汚職を抑制する。
  • 中国人労働者ではなく、地元の労働者を活用することで雇用を創出する。
  • 透明性の高い方法で、中国国営企業以外の事業体も含めて競争入札を行う。
  • 財政の持続可能性と商業的実行可能性を実現する。
  • (長期賃貸による)戦略的な罠や外交政策の選択肢の制約に繋がる持続不可能な債務負担を相手国に負わせない。
  • 中国の裁判所だけでなく、国際裁判所における紛争解決を許可する。
  • 環境責任を推進する。

中国の重商主義政策や未解決の領土・海域の領有権紛争、そして戦略的な不信により、オーストラリア、欧州連合、インド、日本、米国には戦略的機会がもたらされる。

すでに多くの諸国が中国の一帯一路政策に代わるより良好な代替手段を提示している。こうしたプログラムでは、相手国は財政的・政治的債務の罠に落ちることなく安定した開発が可能となる。この例として、日本の「アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)」インドの「地域全体の安保と成長(SAGAR)」インドネシアの「グローバル海洋支点(GMF)」、欧州連合の「欧州・アジアの持続可能な連結強化計画  (AESCON)」、米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIPS)」が挙げられる。

海上拒否・海上支配能力の獲得を試みる中国政府の取り組みにより、オーストラリア、インド、日本、米国などの主要海洋大国には、中国による南シナ海と北インド洋の制海権獲得の防止を目的として前例のない形態で協力する機会がもたらされた。

海洋の未来

インド太平洋地域では複雑に絡み合う安保関係が出現し始めている。同地域における将来的な安保協力体制は、三国間、三角、四角、多国間形式になる可能性が高いと考えられる。経時的に、中国の海上勢力拡大の抑制を目指すさまざまな三国間関係(たとえば、日比越、日米印、豪印尼、日印越、仏豪印)や非公式の多国間取り組みが海上連合またはインド太平洋海上提携に発展する可能性がある。南シナ海で中国政府が違法な活動を継続する場合は、自由で開かれた南シナ海を維持するため、さらに重要なこととして「南シナ海は中国のみのもの」とする考えを否定するために、多国籍任務部隊の設立が必要となる可能性もある。

こうした連合の芽がすでに現れている。他国に屈辱を与える中国の世紀の政策を撤廃し、腐敗した不道徳な政権が導く貧しい発展途上国の屈辱の歴史の幕開けを防ぐために、現在、オーストラリア、インド、日本、米国が協力して戦術と戦略を調整し、より優れた開発融資制度の確立に取り組んでいる。これにより、 中国の権力と階層に基づく一帯一路構想は、自由で開かれたインド太平洋地域の法規に基づく構想と対立する結果となった。

その規模を問わず、すべての諸国にとって公正な競争 環境を維持する秩序を確立するためには、地域レベ ルにおける三国間、四国間、多国間協力体制を維持する必要がある。うまくいけば、ニュージーランドや カナダなど、より多くの諸国が関与することで、この取り組みがより発展することになるであろう。  


優れた 中国 「一帯一路」代替案

オーストラリア:安保提携国の拡大

「『無用の産物』しか生み出さないプロジェクトにより、太平洋島嶼国を『借金地獄』に陥れる」中国に対する懸念を表明した豪政府は、中国政府がソロモン諸島、パプアニューギニア(PNG)、オーストラリアを結ぶ光海底ケーブルの敷設、パプアニューギニアとバヌアツでの海軍基地建設、フィジーの軍基地であるブラックロックキャンプ(Blackrock Peacekeeping Humanitarian Assistance and Disaster Relief Camp)の開発事業を提案した際、先制措置を講じてこれを阻止している。オーストラリアはまた、インフラ融資と助成金に 2,180 億円相当(21 億 8,000 万米ドル)を割り当てることで、同地域の島嶼国への援助と外交関係を強化した。米豪は共同でパプアニューギニアのマヌス島にあるロンブラム海軍基地を再開発している。(海軍共同演習と哨戒活動を通した)フランス、インド、インドネシア、日本、フィリピン、英国、ベトナムとの海洋協力の機会も増加している。

パプアニューギニア大学(UPNG)の校舎開校式でスコット・モリソン(Scott Morrison)豪首相を抱擁するパプアニューギニアの女性。2018 年 11 月にパプアニューギニアのポートモレスビーで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議以来、オーストラリアはパプアニューギニアに支援を提供している。ロイター

欧州連合:中国が構築するネットワークへの対抗

中国が海上勢力拡大と「経済飛地」帝国設立を企んでいることで、国際法を擁護するため、かつて欧州で帝国海軍の名を馳せたフランスと英国の目がアジア地域に向くことになった。特に今回は、以前の植民地 (オーストラリア、インド、マレーシア、ベトナム)がこの動きを支援している。2018 年、(ハンガリーを除く)欧州連合の駐中大使 28 人中 27 人が、「環境または労働に関する国際基準」への非準拠を理由に、自由貿易を妨げ、中国国営企業のみに不公平なメリットをもたらすとして一帯一路政策に対する非難の声を上げた。中国主導の枠組「16 + 1」(中国、チェコ共和国、ハンガリー、セルビアなどの中東欧諸国が関与する首脳会議)に代表されるように、欧州連合は欧州連合の 結束と地域の団結を弱体化させる「分断統治」が中国政府の狙いであると批判している。南欧州と中央欧州の国(オーストリア、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、ポルトガル、セルビアなど)を一帯一路政策の軌道に誘い込む中国政府の計画が注目に値するほど成功を収めていることで、貿易と技術に関する危惧と戦略地政学的な懸念の拡大に対処するため、欧州連合は中国に対するより厳しい姿勢を取るようになった。
欧州連合が初めて中国を「経済的競合国」および 「代替の統治モデルの検討要因となる体制上のライバル」と呼んだのは 2019 年 3 月のことである。欧州連合は 「欧州・アジアの持続可能な連結強化計画」を提案している。これは、投資家を対象に33 兆 3,000 億円相当(3,000 億ユーロ/約 3,330 億米ドル)の投資を求め、2021 年から 2027 年にかけてインフラプロジェクトを構築することを目的とするものである。

インドネシアのジャカルタで、貿易と投資の促進を目的とした経済連携協定に署名するインドネシアのエンガルティアスト・ルキタ(Enggartiasto Lukita)商業相(右)とオーストラリアのサイモン・バーミンガム(Simon Birmingham) 貿易・観光・投資相。ロイター

インド:「アクトイースト」と「ルックイースト」政策による安全な成長計画

アジアにおける中国の仇敵とも言えるインドは、2017 年 5 月と 2019 年 4 月に開催された一帯一路 フォーラムの両方をボイコットした唯一の大国である。 インドが当初から一帯一路プロジェクトの実行可能性と持続可能性に対して感じていた懸念の多くが正当化されただけでなく、他国からも一帯一路批判が発生したことで、インド政府は胸をなでおろしたところである。過去数年にわたり、ビルマ、マレーシア、モルディブ、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、タイなどの諸国が中国企業との取引を撤廃する、または 契約内容を再交渉するという事態が発生している。  「中国・パキスタン経済回廊(中パ経済回廊/CPEC)」 のプロジェクトは地域紛争が発生しているカシミールを通過することで、インドの主権と領土保全の維持が損なわれるとして、インドは中パ経済回廊に対する 懸念を表明しているが、中国政府が同懸念に対応する ことを拒否したことで、インド政府は引き続き同計画に 断固として反対する姿勢を示している。しかし、インド は(インド、ビルマ、タイを結ぶ高速道路、カラダン・マルチモーダル運輸交通プロジェクト/ KMTTP、バングラデシュとビルマの港湾により)インド、ビルマ、タイを結ぶ東西回廊を支援している。西部では、インド はイランのチャバハールを経由してアフガニスタンとの貿易と輸送(鉄道と港湾)回廊を建設している。報じられたところでは、インドは「平和、繁栄、安全 に対する責任はインド洋諸国が負うべき」として、 東アフリカから東南アジアという広範な近隣諸国に対し て 2 兆 5,000 億円相当(250億米ドル)から 3 兆円相当  (300 億米ドル)の信用貸しと助成金の提供を約束し、  「地域全体の安保と成長」プロジェクトにより、港湾を繋ぐ中国のネットワーク開発事業に代わる構想を提供している。これは、習主席が提唱する「アジア人のためのアジア」という無意味な美辞麗句に対するナレンドラ・モディ(Narendra Modi)印首相の反発であるだけでなく、インド洋地域でかつてインドが有していた貿易経路と文化的繋がりを復活させる試みでもある。軍事面では、 中国政府が海上ネットワーク拡大に取り組んでいることで、 インドは3つの戦略、すなわちインドネシア、イラン、 マダガスカル、モーリシャス、オマーン、レユニオン、セイシェルにおける基地をインド海軍が特権的に利用できるようにすることでインド洋の防衛を強化する、東シナ海と南シナ海で共同海軍演習を実施する、野心的に海軍展開を開始する(2030 年までに航空母艦 3 隻と攻撃型潜水艦24隻を含め、海軍の艦艇を 138 隻から 212 隻に 増加する)という戦略を発表した。中国人民解放軍海軍がインド洋を南下するのに伴い、インド海軍はますます東の太平洋に目を向けるようになってきた。中国政府が周辺海域で勢力拡大を続ける中、インドは中国を挑発することなく、均衡の取れた姿勢で、志を同じくする日米などの諸国との協力体制構築に取り組んでいる。

インドネシア:グローバル海洋支点

マレーシアのマハティール・ビン・モハマド(Mahathir Mohamad)首相が「新植民地主義」として中国の一帯一路 政策を批判したことで、これが未だ収まらない南シナ 海の領有権紛争と相まって、東南アジア地域で海洋に対 する注意が喚起された。最近行われたインドネシア大統領 選挙活動で中国融資プロジェクトを軽視する素振りを 見せたジョコ・ウィドド大統領は、今後は中国の侵略や違法漁業に対するナトゥナ諸島周辺の防衛を強化しながらも、開発事業について中国資本を受け入れるという 現在の姿勢は崩さないと考えられる。中国の海洋進出に 対抗するため、インドネシア政府は典型的なインド太平洋 国家としての自国の地理的位置を活用して、自国を  「グローバル海洋支点」とする計画を提案している。 中国がインド洋東部での海上勢力拡大を続ける中、 中国人民解放軍海軍がスンダ海峡を抜けて東インド洋で 異例の海軍演習を実施した 2014 年に結成されたインドネ シア、オーストラリア、インド三国間の海洋協力体制により、こうした諸国はより活発な役割を果たせるよう になる。中国人民解放軍海軍の勢力拡大に対する懸念により、インドネシア政府とインド政府はサバンの 港湾開発プロジェクトで手を結ぶことになった。 

2018 年 10 月に東京で開催された日本・メコン地域諸国首脳会議の前に、ビルマのアウンサンスーチー(Aung San Suu Kyi)国家顧問を歓迎する安倍晋三首相。日本とビルマの他にメコン川流域諸国 4 ヵ国の首脳陣が参加した同首脳会議では、同地域における連結と良質なインフラプロジェクトを推進する新たな指針が採択された。 ロイター

日本:アジア・アフリカ成長回廊の推進

中国が自国の海外投資を誇大宣伝しているにも関わらず、依然として日本は主要なインフラ開発推進体および大規模な国際的債権者としての地位を維持している。中国の一帯一路政策に対抗するため、日本はアジア開発銀行(ADB)と連携し、今後5 年間で総額約 1,100 億米ドル(13 兆円規模)の「質の高いインフラ投資」を非常に低金利(中国の金利 4%〜6%に対して 1%〜2%)でアジア地域に提供する「質の高いインフラ パートナーシップ」を発表している。また、東南ア ジアと南アジアへの中国の南北鉄道と競合するため、日本はベトナムからビルマまでの東西回廊構築への援助と投資を増やしている。重要なこととして、国際協力機構(JICA)がバングラデシュ、ビルマ、ジブチ、 ケニア、インド、マダガスカル、モザンビーク、オマー ンの港湾開発に資金提供を行っていることが挙げられる。 紅海では、中国の基地が稼働を開始するかなり前から、 日本はジブチ自衛隊基地を設置している。第二次 世界大戦後の日本にとって、これは初めての本格的 な海外拠点となる。日本政府はまた、インドとの先進的な貿易提携による「アジア・アフリカ成長回廊」を 発表している。さらに、日本はオーストラリア、インド、 インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム、米国との海軍協力体制を強化しており、 ベトナムの「海洋における法執行能力」を支援するための 約 1,000 億円(約 10 億米ドル)の対ベトナム援助計画の 一環として、338 億円(3 億 3,800 万米ドル)相当の哨戒艇6 隻をベトナムに引き渡しただけでなく、フィリピンにも今後5年間にわたり 8,660億円相当(8 6億 6,000 万米ドル)という大規模なインフラ支援を提供する。インドネシアの未開発の沿岸地域については、安倍晋三首相が 640 億円相当(6 億 4,000 万米ドル)の援助を約束した。 日本政府とインドネシア政府は日本・インドネシア海洋フォーラムと外務・防衛担当閣僚会議(2 プラス 2) の開催にも同意している。 

米国:「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進

米国高官等が「短期的な利益しかもたらさず、他国が長期的に依存するように仕向ける欧州の植民地主義を連想させる新たな帝国的な権力」に警戒すべきと警告しているように、米国の国家安全保障戦略では中国は略奪的経済学に従事する修正主義国とされている。 米国の地域戦略は、転換または調整から「自由で開かれ たインド太平洋戦略」に移行した。現在、多国籍企業の利益ではなく、相互主義と平等の原則が米国の 対中政策の柱となっている。中国は世界各地で事業機会 を得ているにも関わらず、中国自体は世界に対して門戸 を閉じたままである。戦略的産業や重要インフラについて、中国政府は自国の国営企業が他国に対外投資や出資を求めることを許可していない。 

日米豪インフラ協力と2018年BUILD法(Better Utilization of Investments Leading to Development Act of 2018)の下、米国は共同 インフラ投資を合理化するために6兆円相当(600億米 ドル)の国際金融開発公社を設立した。「インド太平洋構想」は、日米豪が協力することで、自国の経済力を 活用して民主主義を弱体化させる行為を働く中国を抑止す ることを目的としている。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米政権下で成立したアジア再保証推進法は、 古くからの日豪韓比の同盟関係を再確認し、インドや台湾 との関係の深化を目指すものである。中国政府との戦略的競争の激化に伴い、太平洋島嶼国に目を向けた米国政府は、勢力均衡を堅牢に維持することを目的として、 東南アジア海洋安全保障構想および海軍の艦艇を355隻に 増加する計画を発表している。貿易戦争、関税戦争、 技術戦争、そして新疆ウイグル自治区などにおける中国に よる重大な人権侵害、知的財産窃盗、サイバースパイ行為 への注視はすべて、中国に行動を改めさせ、その野心 を抑制するために、多面的かつ継続的に中国に最大の 圧力をかけることを目的としている。

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