特集

太平洋に対する 信念

中国の影響を抑制するため、主要国および新興国が南太平洋諸国との協力関係を構築

FORUM スタッフ

華人民共和国(中国)が太平洋で展開している策略は、地域内外の主要国および新興国に衝撃を与えている。ここ数ヵ月の間に中国はオーストラリア、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアの国々と経済的・防衛的関係を確立する作戦を急速に進めている。中国共産党政権による太平洋への関心の高まりに伴い、オーストラリア、インド、インドネシア、日本、米国を含む同地域の他の戦略的パートナー等はより創造的に協力体制を整え、自国が中国よりも有利な経済・防衛提携国であることを実証しようとしている。

2018 年 7 月、当時オーストラリア連邦外務大臣を務めていたジュリー・ビショップ(Julie Bishop)外相はフランス通信社(Agence France-Presse)に対して、「優れた投資とは、透明性、公開競争、持続可能性、厳格な世界基準の順守、現地労働力の雇用、そして持続不可能な債務負担の回避という条件を満たすものだとオーストラリアは信じている」と述べている。同発言は「経済成長を推進し、機会を創出し、そして自由で開放的かつ包括的で繁栄したインド太平洋を実現するプロジェクトへの投資を動員すること」を目的として、日米豪の 3 ヵ国が提携関係を結んだ発表時にコメントされたものである。

フィナンシャル・タイムズ紙が報じたところでは、 2011年以降、中国は南太平洋全域にわたってさまざまなプロジェクトに 6,000 億円(60 億米ドル)を超える投資を行い、同地域における第 2 位の援助国としての地位を固めている。同紙によると、2011 年から 2018 年の間の拠出が 6,720 億円相当(67 億 2,000 万米ドル)、支出が 5,580 億円相当(55 億8,000 万米ドル)のオーストラリアが依然として最大の援助国であり、これにニュージーランド(第 3 位)、米国(第4位)、日本(第5位)が続いている。

軍事的策略

莫大な同海域における影響力争いは、オーストラリア、ニュージーランド、南太平洋諸島、そして米国、フランス、英国の海外領土などの国々対中国の競合という図となることが多い。

2018 年初頭、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国の首脳陣は太平洋諸国との経済交流の機会を増やし、同海域の国々が中国に引き付けられるのを防止する意向を表明している。太平洋諸国のいずれも
中国の申し出に同意していないことから、同首脳陣は同地域への中国の侵入を食い止める時間はまだ残されていると述べている。

2018 年 9 月にオーストラリアン紙が報じたところでは、中国が南太平洋に軍事基地を設立する意図を示唆した情報に基づき、オーストラリアの情報アナリスト等は同地域がオーストラリアに対する最大の戦略的脅威となりつつあると分析している。

2018 年 4 月、中国がバヌアツの小島に軍事拠点を構築する意向を非公式に示したという報道が伝えられた。バヌアツと中国は両国共に、同協議が実施されたこと、および当該計画が存在することを否定したが、オーストラリア諜報機関は同事実が存在することを示唆しており、専門家等はその可能性が高い理由について意見を述べている。

2018 年 4 月、南太平洋全域にわたりソロモン諸島、東ティモール、トンガの各地域から何百人もの中国国民を中国政府が避難させたと、オンライン雑誌のザ・ディプロマット(The Diplomat)は報道している。同避難活動が実施されたのは、中国国民や華人ディアスポラが所有する事業に対する攻撃が発生したためである。

2018 年 4 月、ザ・ディプロマットに、「南太平洋における中国の存在感が高まるにつれて、同様の事態がより大規模に激化することは想定に難くない」と意見を綴ったオーストラリア国立大学(ANU)国家安全保障カレッジ(NSC)の上級研究員、デビッド・ブリュースター(David Brewster)博士は、さらに「こうした緊急事態により、中国は危機が発生した地域の施設に安全にアクセスできるような措置を追求する可能性がある。過去にフィジーで危機が発生したときにオーストラリア政府が自国市民を注意深く見守ったように、地方自治体が安全を確保できない場合に中国が安保手段を提供する措置を推進する必要性に駆られる可能性がある。

2018 年 8 月、シンガポールで開催された第 51 回 ASEAN 外相会議で、河野太郎外相(左)および当時オーストラリア連邦外務大臣を務めていたジュリー・ビショップ外相を歓迎する米国のマイク・ポンペオ国務長官(右)ロイター

2018 年 9 月にオーストラリアン紙が報じたところでは、バヌアツにおける中国軍事基地建設報道が否定され、真相が謎に包まれたままの状態にある中、オーストラリアと米国はパプアニューギニア(PNG)のマヌス島に
所在する基地の軍事インフラを強化し、共同の海軍基地を建設する計画に合意した。

Adm.米国国家安全保障局長官と米国サイバー軍 (USCYBERCOM)司令官を兼任した経歴を持つマイク・ロジャース(Mike Rogers)大将は、同基地計画をオーストラリアとパプアニューギニアにとって「Win-Win
(双方に利益のある結果)」であると評価している。

オーストラリアン紙によると、ロジャース大将は、「魅力的な資源を有するパプアニューギニアなどの国々には、必ず多くの中国人が存在している。これは偶然ではあるまい」と述べ、さらに中国は「明らかに自国にとって有利な関係を構築しようとしている。これが本質的に悪であると主張するわけではないが、意識的な戦略でもある。中国がこれを単なる思い付きで実施している、または『なぜ今頃オセアニアの島々に興味を持つようになったのだろうか?』と考える者はいないはずである。中国の同政策にはそれなりの理由がある。偶然だと考えないでほしい」と付け加えている。

南太平洋全域においてオーストラリアが 2018 年に防衛費として支出した総額は 120 億円相当(1 億 2,000万米ドル)に上っており、これはますます増加していると、オーストラリアン紙は報じている。

クリストファー・パイン(Christopher Pyne)豪国防相は、「戦略的な国家安保利益において太平洋は非常に優先順位の高い地域である」と述べている。

インドの影響の増大

近年、世界で最も急成長を遂げている主要経済国として頭角を現してきたインドは、今後 10 年間で中国よりも急速に成長すると予測されている。大部分は小規模だが増加しつつあるインドの対外援助は南アジアとインド洋といった近隣諸国に向けられているが、インドの援助外交は南太平洋の小国、特にフィジーにまで広がっている。19 世紀に英国がフィジー島に連れてきたインド人契約労働者の子孫、インド系フィジー人が同国人口の約 38%を占めている。

長年にわたり東アジアとの関係強化を目的とする 「アクトイースト」政策を実施してきたインド首脳陣は、最近ニュージーランドのコンソーシアムと協力して、経済、貿易、外交、安保、統治、社会開発に関する重要分野の発展に取り組んでいる。

Adm.2018 年 8 月、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)司令官として初めてニュージーランドを訪れた際に、同国ウェリントンに所在するプケアフ国立戦争記念公園で開催された授賞式に参加する米インド太平洋軍のフィリップ・S・デービッドソン(Philip S. Davidson) 司令官ロビン・W・ピーク(ROBIN W. PEAK)一等兵曹/米国海軍

シンガポール国立大学(NUS)南アジア研究所(ISAS)のラニ・D・ミュレン(Rani D. Mullen)客員研究員によると、地域的かつ海外との関係確立にますます注力する台頭勢力のインドは南太平洋への関与に熱心に取り組んでいる。

ミュレン客員研究員は、「特に太平洋地域での 100 年以上にわたる長年の歴史およびディアスポラ(インド人離散定住集団)の存在を考えれば、これは別段新たな取り組みではない」とし、「この新たな思考が『ソフトパワー』を通じた太平洋島嶼国との関与の深化に繋がった。主に訓練や教育、そして文化的関与を通じて関係強化を図っている」と説明している。

他市場との多様性は良好な要素だが、内に隠された狙いに注意するようにと、客員研究員は投資家を求める南太平洋諸国に警告している。

客員研究員はまた、「インドは新たな素晴らしい取引相手であり、中国とは対立している。諸国は中国が提案するような投資の種類と高金利に十分に注意することが重要となる。トンガの例を忘れずに、これを念頭に置くことが大切である」と述べている。さらに、ビルマ、モルディブ、スリランカなどのインド近隣諸国や国境を接するパキスタンにおいて中国が港湾や空港のインフラ建設支援を開始したとき「インドは驚いた。インドは、より良い経済的交流をもたらし得る良好な労働関係を構築することを望んでいる。この意図が最近の南太平洋との交流強化の推進力の一部となっている」と説明している。

ニューデリーに所在するジャワハルラール・ネルー大学(JNU)国際問題研究院(SIS)のラジェッシュ・ラジャゴパラン(Rajesh Rajagopalan)教授は、インド太平洋全域におけるこの力学の変化をインドに向けた「警鐘」と呼んでいる。

ラジャゴパラン教授は、「世界は中国の台頭によりもたらされた課題に直面している」とした上で、「世界の外交政策は平和的、または緊張的、あるいは紛争的になる可能性がある」と述べている。

日本の太平洋戦略

日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIPS)」の推進に尽力する安倍晋三首相は最近、海上秩序を目的として、太平洋島嶼国を対象とする能力開発プログラムを発表し、同取り組みを一歩前進させた。

2018 年 5 月に第8回太平洋・島サミット(PALM)を主催した安倍首相は、法治に基づく海上秩序実現に向けて一層の焦点を当てることを誓約している。日本は南太平洋における中国の影響を抑制するための取り組みを進めているが、これはその一環となる。

ザ・ディプロマットによると、2015 年の太平洋・島サミットでは、日本は南太平洋諸国への援助金として 460 億円相当(4 億 6,000 万米ドル)を支出すると発表している。

2018 年 5 月、安倍首相が主催した太平洋・島サミットは、サモアのトゥイラエパ・ルペソリアイ・サイレレ・マリエレガオイ(Tuilaepa Lupesoliai Sailele Malielegaoi)首相を共同議長として日本で開催された。日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」に基づき地域の安定と繁栄に一層深く注力する意向を表明しただけでなく、太平洋諸国は同戦略の基本原則の重要性を分かち合い、同戦略下での太平洋地域における日本の取り組み強化を歓迎していると発表している。安倍首相はまた、法治に基づく海上秩序に一層の焦点を合わせることも約束している。

2017 年 2 月、ワシントン DC のホワイトハウスで開催された会議で安倍晋三首相を歓迎する米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領(左)GETTY IMAGES

同月、日本が資金を提供したサモアの太平洋気候変動センターの建設が開始された。

3年ごとに開催される太平洋・島サミットは、安倍首相にとって太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国から代表団を結集して関係強化を図る良好な機会となる。

2018 年 5 月に開催された太平洋・島サミットの冒頭発言で安倍首相は、「古来,私たちに海の恵みをもたらしてくれた太平洋。その太平洋で我々が昔からもっている権利を、国の大小に関わりなく守ってくれるのが法の支配である」と述べ、「各国の法執行能力を含む『海を守る』能力の向上に、日本は助力を惜しまない」と続けている。

安倍首相はさらに、太平洋提携諸国が自立的で持続可能な繁栄を実現できるように、日本は「ハードとソフトの側面」で質の高いインフラ整備に努めると共に、人と人との交流を一層盛り上げ、「パームの未来を背負って立つリーダーたちを、皆さまと一緒に育てる」と語っている。

次回の太平洋・島サミットは 2021 年に開催される予定である。

知情意

南太平洋では無数の提携関係が結ばれている。ヘビー級に値する日米豪 3 ヵ国の提携関係はその協力体制を今後も継続し、中国への対抗策として他の戦略的関係を構築することを約束している。

2018 年 8 月に星条旗新聞が報じたところでは、当時オーストラリア連邦外務大臣を務めていたビショップ外相は、「インド太平洋地域の平和と繁栄を推進するには一層の支援が必要であることを、この 3 ヵ国は認識している」と述べている。

オークランドを拠点とする米国のポール・ブキャナン(Paul Buchanan)安全保障アナリストは同紙に対して、南太平洋への中国の進出が拡大したことで、同地域に投入された資金額は急増していると語っている。

ブキャナンアナリストによると、同進出には海底ケーブルに近いシギント基地として機能する在トンガ中国大使館の開設および中国からフィジー海軍への新しい監視艦と水路測量船の提供が含まれる(他の新聞報道によると、中国はフィジーの警察に訓練と車両も提供している)。

アナリスト等は口を揃えて、太平洋へのインフラ投資が不可欠であると警告している。東京の多摩大学ブラッド・グロッサーマン(Brad Glosserman)客員教授は星条旗新聞に対して、「この [3 ヵ国の提携関係] は、地域および世界の知情意をかけた競争であり、そうでない振りをするのは馬鹿げている」と語っている。

他のアナリスト等と同様に、中国の南太平洋プロジェクトが成功しているという見解に反対意見を唱えるグロッサーマン客員教授は、「こうしたプロジェクトの多くはうまくいっていない」とした上で、「これを中国の成功と捉えるのは現実的ではない」と述べている  


中国の需要に押されて急激な伐採が進むソロモン諸島の森林

ロイター

2018 年 10 月に発表された環境保護団体の調査によると、飽くことのない中国の木材需要に押されて、南太平洋のソロモン諸島では持続可能な速度の約 20 倍の勢いで熱帯林が伐採されている。

同諸島最大である木材輸出の輸出量は、2017 年には 20%以上も増加し 300 万立方メートルを超える容量に跳ね上がった。中央銀行のデータによると、これは約 378 億円(3 億7,800 万米ドル)に相当する。

環境・権利保護団体のグローバル・ウィットネス(Global Witness)によると、これは持続可能な水準よりも19倍以上も高く、この状態が続けば国が衰退し、間もなくソロモン諸島の経済成長に対する最大の貢献要素が枯渇する可能性がある。

森林伐採により、地元の食料源である野生の果物や野菜が排除され、動物の生息地も破壊される。

ソロモン諸島のカオグロヤイロチョウ

グローバル・ウィットネスが輸入データを分析したところ、圧倒的多数の木材が世界最大の木材輸入国である中国に送られていることが判明した。同データを見れば、中国政府が早急に輸入規制と原産地調査に乗り出す必要性があることは明確である。

報告書をまとめた研究チームを率いたベイベイ・イン (Beibei Yin)氏は、グローバル・ウィットネスが本拠を置くロンドンとの国際通話で、「全く持続不可能な規模で伐採が実施されており、このままでいけば天然林は間もなく枯渇する」と話している。

同氏はまた、「大半の木材を輸入している中国企業は夥しい数に上るが、すべての企業が一斉に購入を中止すれば元の状態に戻る望みがまだある」と語っている。

持続可能な状態でソロモン諸島から輸出できる木材量としてグローバル・ウィットネスは15 万 5,000 立方メートルを提示しているが、これは最小量であり、最近実施されたいくつかの政府と専門家による分析では最大量が約 30 万立方メートルと計算されている。

同団体は森林の枯渇が発生する時期については独自の推定を行っていないが、2011 年にソロモン諸島の林業省が出した仮推定値によると 2036 年に枯渇すると見られている。

ソロモン諸島首相府はロイターに対して照会先として林業省大臣秘書官を指定したが、ロイターからの電子メールによる問い合わせに対する秘書官の回答は今のところ返ってきていない。

中国商務部もファックスによる問い合わせに応じていない。

ソロモン諸島では 990 島に分散される総面積の約 80%を 220 万ヘクタール超の森林が占めている。

同諸島の林業省が以前に述べたところでは、違法伐採対策として規制を強化してはいるものの、規制執行能力の欠如により、伐採者が許可量以上の伐採を行うリスクが高いと、グローバル・ウィットネスは説明している。

同団体による伐採道路の衛星分析では、伐採が名目上制限されている標高 400 メートル以上の土地に 669 キロメートルにわたる伐採跡が確認された。

国際刑事警察機構(ICPO /インターポール)は、違法木材の世界貿易は年間5兆円(500 億米ドル)超に相当すると推定している。

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