特集

タイ 平和維持軍を配備

Q & A タイ王国軍ナッタポン・ケッツムブーン少将インタビュー

FORUM スタッフ

タイと米国が共同主催した多国籍軍事訓練「コブラ・ゴールド(Cobra Gold)2018」の後、タイ王国軍(RTARF)の平和維持活動センター(POC/Peace Operations Center)ディレクターを務めるナッタポン・ケッツムブーン(Nuttapong Ketsumboon)少将にタイの国際平和維持への取り組みについて FORUM がインタビューしました。

ダルフール、ハイチ、東ティモールなどの国々で実施されている国連平和維持活動(UNPKO)にタイは貢献してきました。こうした配備に対して軍隊の準備態勢を整える上での POC の役割についてご説明いただけますか?

独特な形態で構成される POC は、総体的なかたちで平和維持活動に対する全責任を担っています。こうした義務を負っている組織はタイ王国軍の中で POC のみです。当組織の役割は、軍隊代表として平和維持軍に対するタイの貢献に関する内閣意思決定プロセスに省間レベルで関与することから、国防省レベルで平和維持戦略と政策を策定することに至るまで、さまざまなレベルに及びます。POC は平和維持能力強化計画を実施し、タイの平和維持部隊の配備を調整・管理するだけでなく、配備前の訓練コースを開発・実施します。

配備のために部隊の準備態勢を整える際、国連平和維持活動に派遣される部隊が国連基準に従って選択、構成、装備、訓練されていることを確認するのは POCの役目です。 

個々の配備における POC の役割は、「オンコールリスト」と呼ばれる準備システムを実装することです。このプロセスは、専門的な平和維持軍を確立できるようにタイ王国軍の隊員の選択を管理して準備態勢を整え、専門分野に応じて隊員を国連平和維持活動に適応させることができるように構成されています。 

共同配備や支隊配備において、POC は国連平和維持活動即応能力登録制度 [PCRS] に準拠しています。2015年国連平和維持サミットでプラユット・チャンオチャ首相が表明したタイのコミットメントによると、国連ミッションの配備を達成することを目的として、現在、タイ王国軍から HMEC(Horizontal Military Engineer Company)、レベルIIホスピタル(Level II Hospital)、鑿井部隊(Well-Drilling Unit)の 3 軍隊が PCRS レベルIIに登録されています。

PCRS システムの下、POC は 2 段階において重要な役割を果たしています。部隊配備がまだ承認されていない事前承認段階では、PCRS システム登録部隊が揃っていることと作戦の準備態勢が整っていることを確認し、適時に配備を手配します。海外における作戦では、軍司令部との協力により、陸軍、海軍、空軍に要員の派遣を要請して、平和維持軍を結成する権限を与えられています。部隊の準備態勢を維持するには、定期的な配備前訓練と予行演習が必要となりますが、現在、レベルIIホスピタルと鑿井部隊の2部隊が準備を整えているところです。

国連平和維持活動中に、西部ダルフールで病気の児童を診察するタイ王国軍の中尉、ヴィッタヤ・ジラアナンクエル(Vittaya Jiraanankul)医師。AFP/GETTY 画像

配備段階では、国連や他の組織と連絡を取り合い、タイ偵察隊の任務区域への派遣、貨物と旅客の積荷目録の作成・提出および通関・輸送手配、戦略的な空輸・海上輸送の調整、担当範囲内で活動している部隊への物資の輸送に関する一連の国内物流支援の確立などを手配します。RTARF POC ディレクターとしてのご自身の責任についてご説明いただけますか?

司令官やディレクターの責任は、主に指揮する組織の任務によって定義されます。同様に、まず POC の使命や任務を理解していただくことが重要です。RTARF POC には以下 4 つの異なる役割を果たす義務があります。

  • 平和維持活動の構成要員として、平和維持戦略と指令を策定する。また、国連ミッションにおいてタイ平和維持軍が適切に貢献できるように提案をする。活動軍の結成、配備部隊の装備、部隊が国連基準に準拠して訓練されていることの確認、配備前偵察と配備前検査の実施、および国連提供の戦略的運送の手配の調整という点で、平和維持軍の雇用に関連するすべての活動を計画、管理、指揮、統制する。また、国内物流支援活動を計画・実行し、PCRS に登録されている個々の平和維持軍と部隊の作戦上の準備態勢を整える。
  • 国家平和維持活動訓練センターとして、部隊と個々の平和維持軍を対象とする配備前訓練活動に関する平和維持活動訓練指令を策定する。また、国家的な配備前訓練カリキュラムを開発・提供する。さらに、個々の配備において訓練コースを実施し、平和維持シンポジウムを組織する。
  • 国家司令部として、ミッションエリアで活動するタイ平和維持部隊を監視する。また、地上で活動している部隊に対する指揮統制を行使する。
  • 中核研究拠点として、地域と世界の平和維持コミュニティに関与して、経験とベストプラクティスを交換する。国家の平和維持に関する教義と訓練資料を開発・公表し、学術研究を実施する。

以上を考慮に入れると、私の責任は主に、前述の任務を遂行し、確実に資源が効果的に使用されるようにPOC を指揮することと言えます。

最も重要なこととして、2 名の副ディレクターを介して、指揮下にある計画・政策部、作戦部、訓練・教育部、管理・支援部の 4 部隊に懲戒権限と指揮権限を行使する必要があります。

国連平和維持活動の訓練の概観についてお聞かせください。

平和維持活動に従事する前に、兵士と部隊は現代的な平和維持活動を実施できるように適切な準備を整えなければならないということを RTARF POC は認識しています。したがって、平和維持活動において変化する課題に対処し、その専門的機能を効果的に遂行するための知識、スキル、姿勢を兵士と支隊が身につける上で、配備前訓練は重要な役割を果たします。国家平和維持機関としての役割を果たす RTARF POC は、国家平和維持活動の配備前訓練カリキュラムを導入し、平和維持活動に従事する兵士にそれを提供するという主要責任を担っています。

タイ王国軍の平和維持活動訓練は、特定種類の配備と支隊に合うように構成されています。同カリキュラムは、国内の教義と軍事的慣習を考慮しながら、国連の訓練基準に従って開発されています。(訓練の詳細については、41ページの表を参照してください)

POC では誰を対象に訓練を実施していますか?タイ軍と同様に、外国の軍隊でも訓練を受けることができますか?

RTARF POC が実施する平和維持活動訓練はさまざまな集団を対象としており、これは 4 つの主要グループに分類されます。

  • 個別に配備される平和維持軍:POC では、国連幹部コース(UNSOC)と国連ミッション軍事専門家コースの 2 つの訓練を毎年実施しています。適格者として1 年以内の配備が予定されている大佐から中佐までの40 名〜 45 名の幹部がコースの対象となります。
  • 支隊:支隊を対象とした国家平和維持活動の配備前訓練コースを毎年実施しています。40 名の主要士官がコースに出席し、PCRS の 3 部隊にコース情報を広める教官を養成します。
  • 国内教官:40 名の軍事教官を養成し、すべての対象部隊に平和維持活動の配備前コースを提供します。教官は陸軍、海軍、空軍、PCRS の部隊、POC 教官により指名されます。
  • 海外の被訓練者:東南アジア諸国連盟(ASEAN)加盟国の平和維持活動訓練センターとの提携により、タイ王国軍は毎年 ASEAN 加盟国 9 ヵ国の 9 名の幹部に UNSOC を提供しています。このコースに関して、POC は 2020 年までに国連の認定を受けることを検討しています。認定を取得できれば、ASEAN以外の国々でもコースを開催できるようになります。オーストラリア国防軍平和維持活動訓練センター(ADF POTC)との協力により、POC は UNSOCに加えて、隔年に地域平和維持活動演習「PIRAP-JABIRU」を共催しています。この演習では、インド太平洋地域の 22 ヵ国以上における最大 50 名の外国人幹部に参加機会を提供しています。

平和維持活動において地域の文化的習慣や価値を尊重することを軍隊に教える文化訓練の重要性についてご説明いただけますか?

多様性の尊重を非常に重視している RTARF POC は、平和維持活動では文化的にも制度的にも異なる経歴を持つ平和維持軍が混在した環境で協働するという状況が発生することを認識しています。活動を成功裏に実施するためには、独自の文化的な規範と伝統を持つ地元住民を尊重する必要があります。尊重し合う関係を維持することで、平和維持活動に対する地元の信頼性と安心感が構築され、活動範囲における安全性と安定性が高まります。平和維持活動の成功は、こうした関係を構築する各平和維持軍の能力にかかっています。多様性と地元の文化を尊重する意識は、POC が派遣するすべての平和維持活動要員に浸透しています。多様性の尊重は、誠実性とプロ意識と並び、国連の 3 つのコアバリューのうちの1つとなっています。こうした価値観に従わないと、使命遂行に失敗し兼ねません。国連平和維持活動への 60 年間の貢献を通じて、タイの平和維持軍による違法行為や地元住民の虐待事例は 1 件たりとも報告されていないことを誇りに感じています。タイの平和維持軍の誠実性を維持する上で、多様性訓練が重要な役割を果たしていると確信しています。2012年、当時の国連事務総長、潘基文(Ban Ki-moon)から送られたタイへの公式書簡には、「優れた功績を上げたタイの大隊により、西ダルフールに非常に良好な影響がもたらされた。タイ王国軍はその力強い軍事的活動に加え、ダルフールの地元住民との良好な関係を構築するために要員全員が決然たる姿勢で努力を重ねてくれた。特に農業プロジェクトで地域社会を支援するという大隊のイニシアチブは、現地住民等から非常に高く評価されている」と記されています。この国連からの感謝の言葉は、タイの平和維持活動への貢献が成功していることの証となるものです。

国連が医療診療を実施したダルフールのブルの市場をタイの平和
維持軍が通過したときの様子。AFP/GETTY 画像

インド太平洋地域で活動しているタイの部隊にとっては、現地の文化を尊重することがより重要となります。平和、安保、発展の関係は相互に絡み合うものだとタイは信じています。平和がなければ、安保を達成することはできません。さらに、地域社会の発展が不十分であると、安保と安定が失われます。平和、安全、発展は相互に補完し合ってこそ達成できるものです。したがって、タイが国連平和維持活動に協力する際は、地域住民の生活の質の向上と自立した地域社会の確立を支援する持続可能な開発を掲げるラーマ9世のイニシアチブを常に適用しています。タイの部隊が多くの平和維持活動で高い成果を上げていることは明白です。たとえば東ティモールやダルフールなどでは、タイの部隊が地域社会に導入した農業プロジェクトにより、地元住民が生計を立て、経済を発展させ、そして自立するための基盤が構築されました。文化訓練なしでは、こうした功績を上げることはできなかったでしょう。

文化的観点から、平和維持活動のために男女を訓練することはどれほど重要ですか?

実際のところ、タイには男性主導社会という文化が根付いています。古代から今日に至るまで、ほとんどすべての社会で男性が主導的な役割を果たしています。平和維持軍の大半が男性で占められている世界の平和維持コミュニティもこの例に漏れません。しかし、紛争により女性は男性とは異なるかたちで影響を受けることにタイは気付いたのです。多くの場合、女性は身を守るための資源が少なく、児童を含む女性が避難民や難民人口の大部分を占めています。こうした人々は性的暴力などの戦術の具体的な標的となり、頻繁に女性と女児が誘拐・強姦され、性的奴隷にされています。誘拐の被害に遭った女性や女児はその家族からも見放される可能性があり、紛争終結後もパートナーを見つけることが困難となる場合があります。情報収集だけでなく、早期警戒体制を敷き、能力開発を実施して信頼関係を構築するためにも、こうした状況では地元住民との親密性を高める必要があります。しかしながら、女性や女児は紛争による主な犠牲者、特に性的暴力の
犠牲者となるため、男性兵士がこうした人々と社会的・文化的な境界を越えて信頼関係を築くことは多くの場合困難を極めます。女性の平和維持活動要員であれば、こうした女性や女児に安心感を与え、信頼関係を育むことで、ミッションに役立つ貴重な情報を収集し、このギャップを埋めることができるのです。国連平和維持活動への準備態勢を整える上で、RTARF POC は女性の平和維持活動要員の重要な役割を認識し、すべての活動にジェンダー視点を取り入れています。国連安保理決議第 1325 号(2000 年)を支持するにあたり、タイ王国軍は個別に配備する女性平和維持活動要員の参加を増加させることの重要性を強調し、女性要員人口を配備される平和維持軍の最大 15% まで引き上げることを目指しています。同軍はまた、積極的に国際社会に関与し、この課題における世界的な取り組みに対する支持を推進しています。2017年11月、国防相の代理としてタイ代表団を率いてブリティッシュコロンビア州バンクーバーの国連平和会議に出席したタイ王国軍副参謀長は、国連平和維持活動に参加するタイの女性要員を増加させるという同軍の課題をその席で取り上げています。2018 年1月にも、同副参謀長はバンコクでカナダのマリロウ・マクヘドラン(Marilou McPhedran)上院議員と会談し、女性の平和維持要員をエンパワーするというタイ王国軍の戦略を再度強調しています。女性平和維持活動要員のエンパワーメントに加えて、POCは男女両方の部隊に実施される配備前訓練にジェンダー視点および紛争関連の性的暴力、性的搾取、虐待に関する内容を確実に取り入れています。訓練ではさらに、前述のような女性平和維持活動要員の重要な役割にも対応しています。

2000 年 2 月、国連平和維持活動の任務を負ってバウカウの町に到着した東ティモール国際軍司令官、ピーター・コスグローブ(Peter Cosgrove)陸軍少将(右)がタイの兵士に敬礼する姿。ロイター

平和維持活動への参加により、タイ全体の軍事力と作戦有効性にどのような影響が出ていますか?

この質問にお答えする前に、まずタイは平和を愛する中規模国であるということを明確にしておきたいと思います。タイ王国軍の最優先課題は、国を保護し、その主権、領土、完全性、国益を内外の脅威から守ることです。そのために、高い戦闘能力のある軍隊を維持して準備態勢を整えることが不可欠となります。しかし、紛争が発生した場合には、政治的解決の実現という平和的解決を重視し、軍事的解決は最後の手段と考えています。世界平和という観点から、同軍は平和的手段によって正義と国際法の原則に則り、平和を脅かす脅威を予防・排除し、国際紛争の調整または解決を導く共同アプローチが重要であると考えています。その権限が一般的に尊重されている組織、具体的には国連がこのアプローチを取る必要があります。1 つの地域で発生した紛争でも、それを容易に封じ込めることができなくなっていることをタイは認識しています。その悪影響は不可避的に他の地域や大陸にも及ぶことになるでしょう。シリアやリビアの紛争が良い例です。タイはまた、世界平和をもたらすための最善の解決策は、国を守ることであると考えています。

さらに、国連加盟国として、タイは国際平和と安保の維持という点で国連を支持することを決意しています。

それゆえ、国連平和維持活動に兵役を提供することは、当国に対する脅威の阻止という観点において、タイ王国軍の軍事戦略の本質的指針とみなしています。したがって、同軍はその軍事戦略に従って平和維持能力を強化、訓練、維持します。同活動への貢献はその軍事力に応じて行われているため、タイが国連平和維持活動に参加することで、当国の軍事力全体に悪影響が及ぶということはありません。より高度な軍事力が必要とされる危機が発生した場合には、タイ王国軍は予備役を動員して訓練できる効果的なシステムを配置しています。

タイ王国軍は引き続き、国際平和維持に関して国連を支援することに積極的に取り組んでいきます。過去から今日に至るまで、平和への貢献という観点から、同軍は部隊、資源、兵役を世界各地の 20 を越す平和維持活動に提供してきており、そのうちの 4 つのミッションは現在も進行中です。これには、国際連合アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)、国際連合南スーダン派遣団(UNMISS)、国連インド・パキスタン軍事監視団(UNMOGIP)が含まれる他、同軍は 2018 年 7 月に 273 部隊という編成で HMEC を南スーダンに派遣する準備を整えています。

国際平和を維持することで世界をより安全で平和なものにするという観点から、タイ王国軍は国連支援への取り組みを強化することを決定しています。


平和維持活動訓練一覧

第 1 段階:個人のスキル強化訓練。基本的な応急処置、活動地の言語でのコミュニケーション、武器のスキル、交渉、地図の読み方とナビゲーションが含まれる。

第 2 段階:国連平和維持活動訓練。国連平和維持活動の基本と原則
および任務を達成するために必要な価値観、行動、実施を網羅した国連中核配備前訓練教材(CPTM/U.N. Core Predeployment Training Materials)に記載されている教訓的な課題が含まれる。

第 3 段階:技術スキル訓練&実地訓練。この段階は、被訓練者が特定の任務を遂行するためのスキルを身につけられるように構成されている。幹部を対象とする場合は、訓練には国連現場本部の構成要因としての機能、作戦環境の分析の演習、および軍事的意思決定と要員の配置計画の演習が含まれ、最後に文民保護などの任務に対する要員の対応に焦点を当てた図上訓練で完了する。
ミッション軍事専門家の場合は、協定に関する巡察、監視、監督および監視所の交渉と配置などに関するスキルを訓練する。

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