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極超音速兵器競争でしのぎを削る米・中・露

マーク・エスパー米国防長官

極超音速技術の活用に関して、米国および、兵器実験をすでに成功したと主張する中国とロシアの間で軍備拡張競争が加速されている。 

Military.com によると、2018 年 8 月、当時米国陸軍長官を務めていたマーク・エスパー(Mark Esper)米国防長官が、米国は極超音速技術に関するプログラムを推進することを決定し、その研究と開発を優先しており、2028 年までにミサイル展開が期待されていると発表している。

エスパー国防長官は、「極力迅速に開発が進むように、米軍の極超音速技術開発者を激励している」と話している。

最低でも音速の 5 倍の速度で飛行する極超音速機は、マッハ 5 を超す速度で米国本土を約 30 分で横断できる。これほどの技術を兵器に活用すると、同等に戦える同様の技術を欠く諸国が危険に曝されることになる。極超音速兵器は検知、追跡、迎撃しにくいというのが概ね一致した意見である。

CNBC ニュースによると、2018 年 8 月、当時の米国統合参謀本部副議長のポール・セルバ(Paul Selva)空軍大将は、「ミサイル防衛は簡単に実現できるものだと思っているなら、再考してほしい。弾丸で弾丸を撃ち落とすのである。これだけでも難しいのに、巧みに操縦できる弾丸が音速の 13 倍の速度で飛んできたらどうなると思うか。これが極超音速兵器というものである」と述べている。

極超音速ミサイルには巡航ミサイルと飛翔体の 2 つの型がある。極超音速巡航ミサイルはマッハ 5 よりも高速に飛行する。これは従来型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)とは異なり非弾道型で、重力を利用して目標に着弾する仕組みである。極超音速滑空飛翔体はまずアーチ型に大気圏外に打ち上げられ、弾頭が切り離された後、大気圏内を極超音速で滑空飛行する。ディフェンス IQ(Defense IQ)によると、従来型の大陸間弾道ミサイルの飛行経路は重力任せとなるが、極超音速技術を活用することで、大気圏に再突入する飛翔体に搭載される弾頭は、その空気力学的形状により、音速を突破する際に自体から生成される衝撃波の揚力に乗って浮揚できるようになる。これにより、既存のミサイル防衛システムでは太刀打ちできない速度が可能となる。 

2018 年 3 月の年次教書演説でロシアのウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、ロシアが実験に成功したと主張する核弾頭搭載可能な極超音速兵器について豪語している。プーチン大統領は「アバンガルド」と呼ばれるロシアの極超音速滑空飛翔体を「理想的な兵器」と表現し、NATO のミサイルや防空システムはもはや「無力」であると主張している。 

同大統領は、「たとえ将来的にも、どのようなミサイル迎撃システムをも回避・突破し得る」と述べている。

プーチン大統領の同発言は、10 年以上にわたるロシアの撹乱的な兵器システム開発を認識していた米国の諜報機関関係者等にとっては驚く内容ではなかった。CNBC ニュースの報道によると、米国の諜報機関の報告書では、ロシアが核弾頭搭載可能な兵器実験に成功したことが確認されている。

ロシアおよび極超音速ミサイルへの核搭載の野望を抱いている他国に対して、米国は厳しい警告を発している。

CNBC ニュースが報じたところでは、セルバ空軍大将は、「米国は潜在的な敵すべてに対して断言する。狙いが核兵器である場合は、当国は敵が活用した同種の手段で応酬して危害を加える。これに交渉の余地はない。米国は絶対に譲歩しない」と述べている。

標的に向かう途中でミサイル防衛システムを迂回する極超音速滑空飛翔体「アバンガルド」を示したコンピュータシミュレーション AP 通信

一部の専門家の見解では、ロシアと中国は極超音速兵器に核弾頭を搭載することに集中して取り組んでいるようであるが、米国は通常弾頭搭載型打撃ミサイルに焦点を合わせている。

プーチン大統領の演説においては、ロシアから発射されたミサイルが米国を攻撃するアニメーション動画が披露された。

英国のオンライン新聞、インデペンデント紙の報道によると、2018 年 3 月、米国国務省のヘザー・ナウアート(Heather Nauert)元報道官は、「こうしたアニメーション動画が披露されたことは非常に遺憾である」とし、「責任ある国際的な大国の行動とは考えられない」と表明している。

2018 年 8 月には、米国と戦略的に競合するもう1 つの大国、中華人民共和国(中国)が新型極超音速兵器の実験成功を公表している。

CNN ニュースが伝えたところでは、新型極超音速滑空飛翔体「星空2号」の初実験を実施した中国航天空気動力技術研究院(CAAA)は、最高速度がマッハ 6 に達したと発表している。これは音速の6 倍の速さ、つまり時速 7,344 キロである。

中国航天空気動力技術研究院は、極超音速滑空飛翔体の計画の詳細については明らかにせず、中国で進行中の航空宇宙産業開発プロジェクトの一環であると説明するに留まった。同研究院の声明には、「技術的に困難で非常に革新的な星空 2 号の飛行試験プロジェクトでは、多くの国際的な最先端の技術的課題に直面した。実験に用いられた飛翔体は制御可能であり、科学的データは有効である。予定通りロケットを回収できたことは、星空2号の飛行実験が成功したことを意味する。これで『中国の初の飛翔体』の偉業が刻まれた」と記されている。同飛翔体は機体の衝撃波を揚力面として使用する極超音速機の一種で、これにより揚抗比が改善する。

中国とロシアで極超音速兵器開発が前進していることで、米国は自国に対する圧力が高まっていることを認めている。 

2018 年 3 月、米国戦略軍(USSTRATCOM)のジョン・ハイテン大将は CNN ニュースに対して、「中国が極超音速機を実験した。ロシアも実験済みである。米国も実施した。極超音速機は大きな課題である」と説明し、「極超音速兵器による脅威を検知するには、異なるセンサー一式が必要である。敵にはそれがよく分かっている」と述べている。

一部のアナリストの見解によると、中国では予想よりも開発が進んでいる可能性があるが、極超音速技術の開発については同国はほぼ口を噤んでいる。マイク・グリフィン(Mike Griffin)米国防次官(研究・技術担当)は 2018 年 4 月の米国上院軍事委員会(SASC)聴聞会で、たとえ中国が発表していなくても、米軍当局の発言によると、中国の極超音速機は同国沿岸から数千キロの地点まで飛行できる可能性があることから、「米国の空母戦闘群や前方展開戦力が危険に曝されることになる」と発言している。 

ビジネスインサイダーによると、グリフィン国防次官は聴聞会の席で、「現在、米国にはこうした兵器に対抗して攻撃できるシステムがない。また、こうしたシステムに対応する防御策もない」と指摘し、「万が一こうした国が同兵器を展開した場合、現時点では米国は不利になる」と付け加えている。

緊急性が高まる中、米国空軍当局者等は、今後は開発の進展に伴い学習していくというアプローチを取るべきであると主張している。 

2018 年 7 月、米国空軍の調達・技術・兵站担当次官を務めるウィル・ローパー(Will Roper)博士は米軍事専門誌のディフェンス・ニュース(Defense News)に対して、「極超音速プログラムというものは、実際に実験を行い、そこから多くを学ぶべきものである。そのため、チェックリストを 1 つ 1 つ確かめて実験を実施できることが確信できるまで待つよりも、スケジュールを詰め込んで実践し、実験結果から何かを学ぶことに焦点を合わせる必要がある」とし、「考え方を変えるだけで、極超音速プログラムを何年も早く進展できる。米国は 3 〜 4 年以内に[ 作戦に耐える初期的な能力を] 構築することを望んでいるが、この予定は長期的なコンプライアンス期間を通してではなく、実験的な試験プログラムを繰り返すことで満たすことができる」と述べている。

2018 年 6 月、ロバート・ワーク(Robert Work)元米国防副長官は、中国の習近平(Xi Jinping)主席が中国人民解放軍の近代化を優先し、次世代軍事技術に多額の投資を実施していると報告している。
習主席は 2030 年までに中国が人工知能の世界的リーダーに成長することを目指している。

しかし、特に極超音速技術については、軍事近代化に関連するすべてを最優先するという中国の意欲だけでは、強固な戦略的存在と優位性を維持する必要性に迫られている米国を圧倒することはできない。 

ワーク元国防副長官は CNN ニュースに対して、 「これだけは負けるわけにはいかない」と語っている。

ザ・ウォッチ(The Watch)誌は、米国北方軍(USNORTHCOM)の出版物。


翼下に極超音速機「X-51」が懸架された飛行試験前の米国空軍機「B-52」ロイター

ミサイルで超音速を達成する仕組み

極超音速の課題の解決策として、スクラムジェットとブーストグライドの 2 種類のアプローチが挙げられる。吸入空気を利用したスクラムジェットの速度はそれ自体の出力にかかっている。 

加速に伴いより多くの空気と燃料がエンジンに注入されることで、極超音速に達する。

ブーストグライドモデルは再突入体に搭載されて非常に高い高度に到達し、地球の大気圏上層をスキップしながら滑空飛行する。

従来型の弾道ミサイルはすでに極超音速で飛行できる。これは核弾頭と通常弾頭を搭載できるように設計されており、飛行中に宇宙空間に達するが、操縦することはできない。 

しかし、より小型で誘導でき、在来型爆薬を搭載できるように設計されている最新型の極超音速ミサイルは、戦域において時間的制約があり、迅速な対応が求められる作戦に利用することができる。

出典:デイリー・メール

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