協調の 最適化

協調の 最適化

インド・太平洋諸国は、協力と情報共有がごく一般的になされる地域を構築する必要がある

ジェイク・エルウッド少将/オーストラリア陸軍

写真:オーストラリア連邦/防衛省

「我々は、ルールに基づいた国際秩序への圧力が強まる中で、厳しい競争にさらされています。このような状況下、私たちにはチャンスがあります:もし私たちが生来持っている可能性を活かしたいなら、全体の繁栄を目指すべきである、というのがオーストラリア陸軍の今後のコンセプトであり「加速する戦争(Accelerated Warfare)」の責任者の意見です。

世界はこれまで以上に相互が繋がり合い、加速的なペースで変化している。そこに存在するリスクと機会を考えると、協力の実現のために現場を最適化することは重要なテーマとなります。

オーストラリア陸軍第1師団の司令官として、私は既知の、あるいは不測の作戦のための陸軍人員と部隊の準備と認定に従事しています。また、2018 年 11 月に任命された新たな役割として、東南アジアおよび南西太平洋におけるすべての国際陸軍活動を計画および指揮するリーダーでもあります。同時に、オーストラリア国防軍 (ADF) の展開軍本部において、共同作戦の責任者に対しても連帯責任を負うことになります。この役割において、私は国内外の大規模あるいは小規模な共同作業部隊 (JTFs) を発動する責任 があります。

2019 年 4 月、ガリポリ半島バラックで行われた訓練の後、 バグダッドから北に 20 キロ離れたタジ軍事施設に配備されたオーストラリア軍のためのパレードにおいて、敬礼する第 1 師団のジェイク・エリウッド司令官

この任務遂行として、最近では、クイーンズランド州で行われた連邦競技大会のような主要な国際スポーツイベント、およびパプアニューギニアでのアジア太平洋経済協力や、ソロモン諸島における選挙関連のいくつかの国際政治活動を支援した。

これらはすべて大きな成功を収めた。チームとしての、また個々のスタッフの素晴らしい仕事の結果である。

2019 年 7 月、私の本部は、タリスマン・セイバー (Talisman Sabre:日豪米共同訓練)において多国籍共同部隊を指揮した。JTF は 33,000 人の兵士、船員、飛行士と、250 機の航空機、50 隻の船を持つ。タリスマンセイバーは、半年に一度行われる合同訓練活動であり、同盟国および協働国と連動したオーストラリア軍の高度で堅実な戦闘能力の実践の場である。

2019 年 1 月、私の在籍する本部は、共同事業の責任者から追加任務を任命されました。それは、南西太平洋内すべての強化地域での軍事活動において、オーストラリアが関わるすべての活動を計画し、指揮するというものでした。うまく行けば、共同作業におけるビジョンをどう共有し最適化するかについての議論を喚起できるのではないかと思っています。これは、地域内で私たち全員が直面する問題やリスクを軽減し、機会を活用する上で重要である。

増幅する脅威

現在、協力の必要性が今までよりも高まっているかについて疑問を抱く者もいるでしょう。しかし、いくつかの要因はそれを示唆しています。直面しうる脅威について考えることは、その理由を理解するための第一歩となります。

一例として、フィリピンの反政府勢力によってもたらされる脅威を考えてみます。過去にさかのぼると、彼らの大部分は組織的、地理的、文化的に隔離されていました。彼らはさまざまな時点を経ながらも継続的な脅威を持ち続けているが、かつては過激思想が始まり、発展して行くのは地域の内部であり、訓練や活動も地域ベースでした。しかし、さまざまな証拠が状況の変化を示しています。むしろ、彼らは現在、地域的にもまたグローバルにも繋がり合い、より結束の固い組織となりつつあります。組織を構成する多国籍のメンバーは、テロ行為を行うとは限らず、単に各ローカルグループの動機付け、情報提供、トレーニング、装備などを支援する活動をしている場合も多いでしょう。現在、危険な過激思想を持つ者たちは、国家を弱体化させるために「劇場を設定する」ことを進めている。彼らは、今や技術と近代的相互接続性によって、地理や国境、あるいは文化的な違いなどの、過去の阻害要因から解放されたのである。新しい繋がり方は、急進的イデオロギーの影響を加速させ、従来の局所的な問題を国際的な問題に変えました。

新しい通信技術のアクセシビリティを利用した過激派が、これまで想像もできなかった距離感と政治的、社会的、文化的障壁を越えて協力し合っている事を示す多くの証拠があります。さらなる懸念は、繋がりがますます進む世界では、もはや国境は明確でなく、国を越えた犯罪が頻発している事です。

暴力的過激派組織か、純粋に組織化された犯罪カルテルのどちらが指揮しているかを問わず、武器と麻薬の不法な国際貿易、人の密輸、マネーロンダリングや知的財産の窃盗などが、すべての国の国家主権を侵食し、より広い範囲でインド太平洋地域の友好と安全を侵害しています。 

2019 年、サザン・ジャッカルーと呼ばれる、日本の陸上自衛隊 と米国海兵隊との三国間演習において、射撃訓練中の兵士に 指令を出すオーストラリア陸軍司令官

インド・太平洋地域の秩序の確立は、該地域に住む数十億人の住民に記録的な発展と繁栄をもたらして来たが、非国家系組織に限らず、国家系 組織もまたこの秩序を脅かし始めています。

国家はまた、他の方法で、東南アジアと南太平洋諸国の最良の集団的利益とは言えないような 行動を取ることもあります。例えば、他国の 領土支配の目論見に対して、国際規範を無視したほぼ
強制に近いような圧力は、私たち全員が反対しなけ ればなりません。国際的な構造における国家の 主権、民主主義、自由は、いかなる対価とも交換で きないでしょう。個々の国単位ではこれらを保証するのが難しい場合もあるが、協同的な集団としてはあらゆる事が可能です。

さらに、国家組織や非国家組織以外の脅威もまた、懸念の対象となっています。気候変動を信じるかどうかは別として、極端な気象現象は増加しているし、その他にも海面水位上昇や砂漠化、
海洋の酸性化などが、今後もこの地域にますます影響を及ぼすことになるでしょう。

また、台風、地震、津波など、長い間インド・太平洋での生活を特徴付けてきた他の自然現象についても、忘れるわけにはいきません。しかし、該地域内の人口は継続して増え続け、大きな惨事をさらに拡大することになります。一部の専門家は、この人口増加が自然災害の影響を10倍に増殖させることを示唆しています。

脅威の源(非国家、国家、環境)に関係なく、インド・太平洋地域に住む私たちは、生活の安定、安全、繁栄にもたらすあらゆるタイプのリスクを無視することはできません。こうした脅威に
おいて、協力は当然でありかつ最適化されているが、その方法についてもはるかに迅速でより効果的にできるはずです。常に、災害を受けた国は、その困難に立ち向かうべく素晴らしい行動をとるが、友人としての諸外国からの多くの支援も、被害国にのしかかる負担を軽減するためには欠かせ ないものです。

与えられた機会

この地域には、世界最大の 10 の軍隊のうちの 7つ、世界のトップ 10 大都市のうちの9つ、さらに世界のトップ 3 の経済圏が存在しています。つまり、どう考えても、利用可能な資源や協力の可能性はほぼ無限であると言えます。協力のためには、政策や資源の閾値が異なる事に各国が留意しなけれ ばならないとしても、最適化された協力によって大きな利益が得られることは確かです。国が共存すれば、多くの利益が得られると同時に失われるものもありますが、協力は確かな道筋なのです。これらの不可侵な原則に対する脅威がどういったものだとしても、協力は主権が保証され、国際的なルールと規範が保護されている繁栄した地域を維持するために最も強力な方法です。重要なのは、協力を最適化するための現場構築を理解し、危機的な脅威や活動から私たち全員を保護し戦略的衝撃に耐えられるようにする事です。このような道筋の特定と採用は、グローバル化した経済の戦略的自由を高め、確実で繁栄した未来を支えるのに役立ちます。

2019 年 6 月にオーストラリアのクイーンズランド州ショールウォーターベイ訓練場で行われたカラバルー演習での 模擬攻撃訓練中に、米海兵隊の MV-22 オスプレイ機から降りるオーストラリア陸軍とフィリピン軍兵士

可能な経路

協力が当然のこととして行われる地域の探求が私たちの利益になる根拠最も難しいのは、軍の成功のための条件を決める事です。これに取り組むに当たって、オーストラリア軍(私が最もよく知っている軍隊)と、この集団的な取り組みに向けて起こりうる変更に焦点を当てます。

地域全体で安全保障協力を促進してきた経緯を振り返ると、彼らは常に善意を持って取り組んではいましたが、時には焦点がぶれ、一貫性に欠けていた事もありました。我が軍の、過去数十年にわたる中東での仕事のペースは速く、そのために地域の同志たちと積極的に関わり続ける能力は 十分とは言えませんでした。私たちが関与した活動 においては、その業務は熱心な取り組みというよりはやや慣習的で、そのため効果と影響は高くありませんでした。

協力を最適化する最大の課題の 1 つは、個人的 な関係をどう発展させるかです。人と人との繋 がりが、信頼と理解を生み出す促進剤となる事は周知です。オーストラリア軍では、主要なリーダーたちだけが限られた慣習的関係を持っていました。つまり、上級指導者たちのごく少数のみが 集中的に注目をされていたが、組織的には散発的で した。

つまり有意義な関係の発展は難しかったのです。私たちが既に知っているように、関係は信頼の速度に即して構築されます。つまり信頼には時間が必要です。これはある重要なテーマを示唆します。つまり、人同士の最適な協力のための条件をどのように設定するのか?という疑問です。それを達成する最初の手段として、まずは時間をかけて関係を構築することです。

重要な責務

キー・リーダー・エンゲージメント(Key Leader Engagement (KLE):リーダーの鍵となる責務)は 最初のステップです。KLE は、共有されている 利益がどこに存在するのか、どのように利益を追求 するのかを指導者に理解させる上で重要です。私は、相手のコミュニティの中で同等の役割を持つ 者との会合に時間をかけることにしました。両者に共有されている問題が発見できれば収穫となるからです。私たちは皆、それらを異なる角度から見ています。これらの異なる視点を組み合わせることで、問題解決の効率は飛躍的に上がります。最近行ったパプアニューギニア、インドネシア、マレーシア、東ティモールの友人との交流は、私が直面している問題を理解し、違った立場の視点を知る助けになってくれました。

成長を続けるもう 1 つの機会は、個人同士だけでなく、地理的に広大な範囲でコミュニケーションを取る能力を強化する事である。かつて疎ましかった距離は、もはや友好国や近隣国とのコミュニケーションの阻害要因ではなくなっています。携帯電話、ユニファイドコミュニケーション、テレビ会議、フェイスタイム、インスタントメッセ ージ、ワッツアップメッセンジャーなどは、危機発生時や限定された時だけでなく常時のコミュニケーションを可能にします。

設定されたプログラムの時間以外でも、非公式な手段を使用して、同志たちと常時連絡を取り合う事を心がけました。これは、深い信頼関係をベースにした関係をさらに長期にわたって発展させて行くために重要です。通訳が必要な場合は手配すれば良いし、また新しいコミュニケーション技術と通訳を組み合わせて使う事もできます。言語の違いはもはや障壁ではありません。また、近い将来まったく新しいコミュニケーションシステムが出現し、相手との交流に通訳者の確保が必須ではなくなるかもしれません。「インスタントインタープリター」などのテクノロジーは、人工知能の能力が向上するにつれて、私たちが考えているよりも速く実現するでしょう。タイムゾーンについてはまだ障壁となるでしょうが、最適化された協力を実現するためには、少々睡眠を削ることはわずかな負担です。

2019 年 3 月、ビクトリア州パッカパニャルで毎年開催されているオーストラリア国防軍の射撃競技会に参加したパプア・ニューギニア防衛軍の兵士

情報共有

また昨今、セキュリティ意識が拡がりつつあります。深い関係を築く上で障壁になるとしても、セキュリティ対策は必要なのかもしれません。オーストラリアは、他のすべての国と同様に主権情報の分類レベルが異なります。当然、機密性の高い情報は限られた人のみが知っています。情報は多岐にわたり、私たちはそれらを色々な相手とそれぞれ違ったタイミングで共有します。しかし、私たちはそれがすべての軍隊が直面する限界であることも知っています。それは苛立つべきことでも、協働国として不信感を募らせるようなものでもなく単なる事実です。また同時に、司令官は常に注意を払う必要があります。なぜなら多くは個人が判断する問題であり、どんな組織にも過度に慎重な人間とルーズな人間がいるからです。どちらの国も困難な立場に置かれず、利益のサポートと保護が保証され、協働国や友好国が必要なときに必要な情報を確実に受け取るためには秘訣があります。

私は、常にチームに対してどうすればセキュリティを保護するためのシステムと情報の変更が可能かだけでなく、どうすれば協働国がタイムリーに情報を知り、メリットを得られるかも問いかけています。これは単純な問題ではなく、完全に 「解決」されることは決してありません。ただし、適切なレベルで指揮官が常に注意を払うべき問題です。不快感のないぎりぎりの所までは共有するが、決してそれを超えないことが誠意ある協力の姿勢です。

協力を強化する上でもう1つ重要な点は、実際に協力し合い共に生き、共に勝利することです。二国間及び多国間の研修は、このようなレベルでの協力を可能にする素晴らしい方法を提供してくレます。戦略的輸送の選択肢が限られていたオーストラリアにおいては、今まで研修は困難でした。しかし、新たな多目的水陸両用艦艇 (LHD)と、強化された空輸機能により新しい展望が生まれました。今では協働国へ出向き、訓練を実施する事がはるかに容易に行えるようになり、また、必要に応じてオーストラリアに呼ぶためのサポートもできるようになりました。これは重要な機会であり、結果的に自国内での訓練に限定される事なく視野を拡げ、友好国や近隣国と共にさらなる高みを目指すことができます。

私たちがオーストラリア軍で見つけた重要な課題の 1 つは、ペースを管理する能力です。これは交流したすべての国とは違っている点です。既存の作戦、不測の事態への取り組み、絶え間ない訓練、活発な国際的軍事活動プログラムなど、あらゆる要求が軍に突きつけられています。これ以上を目指す事はできないが、現在のペースを保ったまま、もっと多くのことを達成できると信じています。未来の展望は、これまで国内で行ってきた演習を融合して近隣の国と共同で行い政府全体の参加を実現することです。

例えば、かつて国内活動において、水陸両用艦艇からの人道的活動を行うための水陸両用部隊を訓練してきました。つまり、自然災害が頻発する海外地域でも、協働国と共に人道支援や災害救助訓練を実施できるはずです。他のオーストラリア政府機関や協働国とのキャパシティ・ビルディングと並行して、地域コミュニティとのキャパシティ・ビルディングも行ったとしたらどうでしょうか。私たちは共同訓練および全政府訓練を成し遂げ、相互運用性を強化できるでしょう。さらに、緊急任務の際には、地域で連携した迅速な対応が可能になり、災害地域におけるキャパシティ・ビルディングを促進できます。このようなケースを例外ではなく通常のものとすることで、最適な協力のための実践理論が実現できます。

2018 年の環太平洋演習中、オーストラリア海軍の水陸両用船 HMAS アデレードから下船した後、砂浜に到着した米海軍の 水陸両用攻撃車両

より深い関係の構築は、厳格な軍事関連の活動として終始する必要はないのです。繰り返しになりますが、戦略空輸能力を強化させる事により、関係を強固にするための活動を増やし、次第により深い信頼関係へとシフトして行ければよいと思います。このような活動は、商取引にとどまらず、より個人的な関係へと発展します。

スポーツ、音楽、その他の文化的・社会的活動は、より絆を強固にするために重要な役割を果たします。2018 年、国防軍最高司令官が、私にロンボクマラソンに参加するかどうか、より正確に
は私にそれが「可能」かどうかを尋ねました。ロンボクマラソンはインドネシア軍によって企画されたもので、インドネシアでの甚大な自然災害の直後、観光の成長を促進するために開催されました。私は喜んで参加しました。インドネシア軍 (TNI)の最高のパフォーマンスを見られる機会だと思ったからです。実際、彼らはコミュニティを支援するために献身し、地域の人たちから深
い感謝を受けていました。また、現地で素晴らしい仕事をしていた復興部隊の優秀なメンバーたちから直接話を聞く機会もありました。この活動は軍事的なものではないが、大きな意義がありました。そして、インドネシア軍は、尊敬と支持を表明するためにこのイベントに参加したオーストラリアのチームに謝意を伝えてくれました。

また、オーストラリア軍のミュージシャンたちは、トンガのグッドフライデーサービスなど、さまざまな音楽イベントに参加したこともあります。このような個人的な繋がりを深める機会は、私たち国民と国家の双方にとって意味深いものであることは確かです。そういった繋がりは、時に義務上の繋がりよりも強いか、あるいは少なくともそれを強化します。何らかの形で任務上および個人的な関係をより深くすることができれば、お互いへの感謝、理解、信頼は必然的に大きくなります。これらは、必ず強い協調へと導いてくれる確実な方法です。

同盟国、協働国、友好国との仕事

協働のための現場を最適化することは、私たち全員が脅威を軽減して機会を活用し、また、最も重要な事として、成功の鍵となる人と人との関係を発展させるのに役立ちます。オーストラリア
においては、これを達成するために強化された通信機能、戦略的モビリティを活用し、軍隊だけでなく政府全体に焦点を合わせた共同活動へのより協調的なアプローチを取って行く必要があります。そうすることで、国際ルールや規範が重視される環境の中でも国民と国家の自由な権利行使を実現するための基盤を確立することができます。

私たちの任務は間違いなくチームで行うものであり、歴史を鑑みると共通の利益は協働によって最もよく得られることがわかります。インド太平洋地域は今後さらに重要になり、また難しい局面を迎えます。しかし、協働が成功すれば直面する課題において孤軍奮闘する必要はなくなるのです。  

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