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不十分な福利厚生に対して抗議した退役軍人に何年もの懲役を科す中国

FORUMスタッフ

AP通信が報じたところでは、兵士の酷使および兵役への補償の欠如に起因して前年度に中華人民共和国(中国)で発生した退役軍人デモへの参加を理由に、2019年4月、同国裁判所は少なくとも47人の退役軍人に有罪判決を下した。退役軍人等の抗議内容には同国による退役年金の支払不履行も含まれる。

中華人民共和国司法部は中国人民解放軍(PLA)の同退役軍人等に懲役2年から6年の刑を宣告したと、ニューズウィーク誌は報道している。罪状には「群衆を扇動して社会秩序を乱した罪」および「意図的な暴行」などが含まれる。ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、被告全員が有罪を認め、一部には「自白」により減刑または執行猶予が認められた者も存在すると、中国の国営通信社である新華社通信は報じたようである。

2018年6月、待遇改善を要求した退役軍人を警察が殴打した事件容疑をきっかけとして起こった4日間にわたる軍人デモで、中国当局は参加退役軍人等を逮捕している。デモに参加した1,000人を超す退役軍人等は、殴打事件が発生した江蘇省鎮江市東部に所在する官庁近くの広場で歌い叫びながら抗議運動を行った。参加者等は政府による軍人の扱いと恩給、および就職口手配の改善を求めている。

2018年に発生したデモの後、中国東部出身のチェン・ウーリヤン(Chen Wuliang)退役軍人はニューヨーク・タイムズ紙に対して、「問題は地方レベルでの汚職が多すぎることである」とし、「汚職に染まっている地域では、国のために戦争で戦った老退役軍人が最も抑圧されている」と説明している。

新華社通信によると、2018年のデモは地元警察官と退役軍人の暴力行動に発展している。また、ニューズウィーク誌の報道によれば、中国司法部は一部の退役軍人に「偽情報をでっち上げ広めた罪」も科している。

しかし、中国の統制が及ばない外部報道機関は、この過度に厳しい判決を中国共産党(CCP)によるもう1つの抑圧形態として捉えている。

元軍関係者等は長年にわたり、軍人に対する不十分な補償および年金について不満を訴えている。しかし、当時230万人で構成されていた中国人民解放軍の30万人削減計画を中国の習近平(Xi Jinping)主席が2015年に発表した後からデモが広範に広がり始めた。こうした運動により、中国に5,000万人超存在する退役軍人を中国政府が無視しているという現状に注目が集まることになった。

2015年から2018年にかけて、複数の小規模な抗議運動だけでなく、1,000人以上が関与する大規模な軍人デモが少なくとも年1回は発生している。たとえば、2016年10月には、中国人民解放軍本部前に1,000人を超す退役軍人が押しかけて抗議を行っている。

2016年、山西省北部出身の55歳の抗議者および元中国人民解放軍兵士はウォール・ストリート・ジャーナル紙に対して、「退役してから、年金も社会保障も何も給付されていない」と説明している。

2017年には、北京に所在する中国共産党中央規律検査委員会の庁舎近くで1,000人を超える数の退役軍人が抗議運動を行った。河南省出身のチョウ・シンユ(Zhao Xinyue)元義勇兵は、政府には退役軍人に就職口の手配または恩給を給付する義務があると説明している。

同元義勇兵はロイター通信に対して、「以前は義勇兵が帰郷する際に土地が与えられた」と説明し、「今では就職の斡旋もなければ、退役年金も出ない」と訴えている。

近年発生している恩給欠如を巡る数々の抗議に対応するため、中国では2018年に中華人民共和国退役軍人事務部が設立されたが、さまざまな報道機関が報じたところでは、多くの退役軍人等は政府の美辞麗句と退役軍人に対する実際の待遇や補償との間には大きな差が存在すると感じている。

さらに、最近下された退役軍人への懲役刑は、市民の声を抑圧するための常套手段と考えられる。チェンという姓の中国人ジャーナリストはラジオ・フリー・アジアに対して、今回の刑罰は中国人民解放軍の退役軍人による今後の抗議運動を抑圧することを目的とするものであると語っている。

同ジャーナリストは、「この種の刑が科される可能性があると分かれば、間違いなく一部の退役軍人は恐怖を感じ、有する権利を主張することに臆する傾向が高くなる」としながらも、「しかし、この一件により中国社会の真の状態を理解し、他の方法で有する権利を主張する手段を見つける人も出てくるであろう」と述べている。

香港フリープレス(HKFP)によると、少なくとも1万人の死者を出した1989年の六四天安門事件からも分かるように、中国は長年にわたり公衆デモを抑圧してきている。(写真:2018年9月下旬、中華人民共和国成立69周年記念日前夜に天安門広場に集まった中国人民解放軍の退役軍人等。中国は兵役に対して適切な補償を行っていないと、その多くが主張)

2019年3月に米国国務省が発表した最新の2018年国別人権報告書によれば、拘禁や強制失踪から拷問、国家が認める殺人、さらには「ジャーナリスト、弁護士、作家、ブロガー、反対派、申立人」の肉体攻撃や刑事訴追に至るまで、さまざまな戦術を通してほぼすべての形態の反対勢力を抑圧する中国に対して、米国は引き続き圧力をかける構えである。

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